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別の次元にある神の命

 ピカトリスの横でかがみ込んでいた俺に上から話しかける女。


「バイラマ……いや」


 さっきまで倒れていたバイラマの姿だ。

 その女が自分の手や身体を眺めたりのぞき込んだりしている。


「ふ~ん。やっぱりこっちの方が馴染むね。手の長さとかも前に戻ったみたい」


 まじまじと自分の身体や視線の高さを確認していた女は、上半身をかがませて顔を俺に近付けた。


「ルシル?」

「そうだよゼロ」

「ルシルか! あの角がこの身体に!?」


 ルシルの意識が移ったバイラマの身体で、目を細めてうなずく。

 俺の押しつけた角。元々アリアの頭に付いていた角をバイラマの身体に押しつけたのだ。


「ルシルちゃん!」

「アリア」


 アリアがルシルに抱きついた。

 さっきまでの光景であれば、小さい方がルシルで大きい方がバイラマだったが、今では大きい方にルシルの意識が、小さい方は抑えられていたアリアの意識がそれぞれ身体を支配している。

 俺はピカトリスをそっと横に寝かせ、ルシルとアリアの様子を見守った。


「それで、さっきルシルが言いかけた事なんだが」

「うん。これはね、バイラマの記憶の欠片かけらとでも言うのかな。私がこの身体、バイラマの身体に入ってから理解できたことなんだけど」


 俺は唾を飲み込む。思った以上に大きな音がして内心驚いた。それだけ俺の中の緊張が大きかったのだろうか。

 ルシルは記憶の中の出来事を話し続けた。


「バイラマとオウル、オウルは先代の勇者でゼロのお父さんね。その二人がこの世界を創ったらしいのよ」

「オヤジが?」


 ルシルがうなずいて肯定する。


「そこでいろいろな事を創って、発展させて、時には壊して。そうやって世界を創り上げていったの」

「だがオヤジは俺にそんな事を一言も教えてくれなかったぞ。それにアリアの事も」

「それなんだけどね。まず、バイラマの……なんて言っていたかな。確か、アバター? そんなやつなんだけど、その身体がこの今私の意識が入っている器なの」

「ふむ。バイラマのこの世界での身体だな」

「そうね、そう言う所かな。それで私が魔王だった頃、魔王城にいてゼロと戦っていた頃ね。あの頃の私の身体がこのバイラマのうつ、いわば複製人間クローンだったの」


 そしてオヤジが連れてきた女の子、俺の妹として育ったアリアは魔王だったルシルの複製人間クローン


複製人間クローンは創るのが難しい、だから錬金術師アルケミストのピカトリスはそれに挑戦したが、人造人間ホムンクルスを創るまでが限界だった」

「ええ。だからこそ複製人間クローンは神の為せるわざだったという事」

「そうするとオヤジも神の一人、だったと……」


 あの放蕩オヤジが、別の次元からやってきた神だったというのか。


「ええ。バイラマの記憶……いえ、もう記録ね。その記録によればオウルはあちらの世界、別の次元でその生を終えたようなの」

「オヤジが?」


 オヤジは旅に出たまま帰らなかった。だが神として俺たちの世界に関与していたとすると、神の次元でまた別の生活があったというのだろうか。

 そして神の次元で死んだ。


「最後の方はログ? ログイン、とかいうのができなくなって、たまにこちらへ来るのがやっとだったらしいわ。そしてその時にアリアを創ってゼロ、あなたに託した」

「オヤジ……アリア」


 ルシルがアリアの肩に手を乗せる。アリアもこんな説明は受けていないだろう。頭の中は混乱しつつも、それでも健気にルシルの言葉を理解しようとしていた。


「バイラマがオウルのいなくなるこの世界を破壊してしまうだろう、自分と共に創った世界で自分がいなくなれば、共に葬ってやるのがバイラマにとっての慈悲」

「慈悲、だと……」

「ええ」


 ふざけるな、自分たちで勝手に創っておいて勝手に消そうなどと。


「オウルはね、この世界を守ろうとしていたの。そのためには私、バイラマの分身を消し去る必要があった」

「ルシルが魔王のままでは都合が悪いか」

「そう。だから一度私が、ルシルが魔王だという事を消すために、オウルの血を分けたゼロ、あなたに魔王討伐をさせたのよ」

「そんな……。確かにオヤジは勇者だった。でもあの頃俺は王国の衛兵見習いだ。勇者になって魔王を倒すなんて考えてもいなかった」

「だからピカトリスがゼロと冒険を共にして、その能力を育てていたのよ」


 魔王討伐を行う頃にはピカトリスは俺から離れていた。だがそれまでに勇者系スキルを俺が使いこなせるようにいろいろと指導をしてくれたのだ。ピカトリス自身は勇者系スキルは使えないが、オヤジと旅をしていた頃に俺へ教えるためのコツをオヤジから訊いていたりしたのだろう。


「そして魔王として討たれた私は自分の複製人間クローンであるアリアの身体に魂を移して記憶と能力を維持できるようにしたの。バイラマの目から逃れるために。そして……」


 ルシルはじっと俺の目を見る。


「世界を滅ぼそうとする神を倒すため、勇者と魔王の力を一つにできるように、と」

「そうか。バイラマにとってみればルシルは自分の分身。ルシルが歯向かった所でバイラマに勝てない。オヤジはバイラマに破壊をやめさせるどころか自分の命さえ危ない状態。そして自分の力を子供の俺に託した……。二人で世界を破壊から守るために」


 何という長い計画、遠大な構想なのだ。何年も、何十年にもわたる神たちの思惑がここまで混沌とした世界を生み出したというのか。


「そうしたら神のいなくなったこの世界は……」


 俺の中で不安と焦りが一つになって胸の奥を締め付けていた。

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