スキルチェックしてみた
俺とルシルは宿屋で襲撃を受けた後、どうにか窓から逃走することに成功した。
二階の窓から出てくるとは思っていなかったのか、外で待機していた奴が何人かいたが宿屋の入り口に固まっていてくれたおかげで裏をかくことができた。
そいつらに気付かれないよう物陰に隠れ、裏路地を抜けて王都を飛び出す。
衛兵のいない門から街道へ出て、とにかく走る。少しでも距離を稼げるように。
「いったい、どうして、くれちゃった、のよ!」
走り詰めで息を整えるのも難しい。途切れ途切れになってもルシルは不満を口にする。
「俺だって知らん! 敵感知が発動したんだ、敵意を持った奴が近付いてきたのを検知しただけだよ、理由なんて判るか!」
まだ敵感知のスキルが発動している。耳鳴りのような痛みはだいぶ弱まっているところから、敵との距離は広がっているのだとは思うが。
「あそこの小屋で一息入れよう」
進む先に倉庫のような小屋が見える。近くの農夫が道具置き場にでもしているのだろう。小屋の周りには農機具や樽が置かれていた。
ルシルは話す事すら億劫なのか、うなずくことで承諾の意思を示す。
「少しは休めるだろうか……」
小屋の扉の鍵はかかっていなかった。俺たちは扉を開けて中に入る。
俺は木箱に、ルシルは藁の山にそれぞれ腰を落とす。
「装備も何も、みんな置いてきちゃったね」
「武器といっても俺が持っている安物の剣くらいか。それと」
俺は懐に入れていた金貨の袋を見せる。
「厄介払いの代金さ」
「へぇ。ま、ないよりマシね」
確かにルシルの言う通りだ。あるだけよしとしなくてはな。
「ねえ、それより顔の傷大丈夫?」
「まだ止血できていないけど平気だ」
走っている間は気にしていなかったが、まだ顔の傷口から血が垂れていた。
俺は傷口に手を当てて念じる。
「簡易治癒……」
初級、Nランクの勇者系呪文で、軽い傷を治すことができる。
呪文を唱えると突然目眩がした。
「どうしたの、大丈夫?」
「ああ、問題ない。だけどなんだこれは、こんな初級呪文で魔力枯渇なんて。今までもっと強力な勇者系呪文を使っていたというのに」
「ちょっと待って、今日ってゼロは魔法を使っていないよね?」
「ああ、そのつもりだし、精神力をドレインされた事もないはずだ」
精神的なショックは大きかったけどな。
ルシルが俺に近付いて顔をのぞき込む。お互いの息がかかるくらいに近い。
「ごめんね」
そう言うとルシルは俺に抱きついてきた。
「ちょっ、なっ」
ルシルの柔らかな髪が俺の鼻をくすぐる。
「そのまま……」
ルシルは俺の首筋に噛みつき、牙を立てた。
針で刺されたような小さな痛みがあり、そこからじわりと痛みが広がる。
「はいっ、おしまい」
ルシルが離れて俺の前に立つ。いたずらっぽい視線を俺に向けながら唇の血をペロリとなめ取っている。
噛まれたところを手で押さえると少しだけ血が付いた。
「いったい何をした……」
「私の固有能力、技能の吟味。これでゼロ、あなたのスキルを判断することができるの」
「そんな固有能力があったのか」
「発動条件はかなり厳しいけどね。私も実際に使うのは初めて……。それでね、ゼロ」
打って変わって神妙な面持ちで俺を見つめる。
「あなた、発動していないスキルがあるのよ」
「発動していないスキル?」
「ええ、SSSランクの勇気の契約者。あなたの所持している勇者系スキルが無効状態になっているの」
【後書きコーナー】
基本的に本編はゼロの第一人称で書きますので、後書きコーナーでは第三人称、神の視点で遊びたいと思います。
※第三話にも後書きコーナーを追加しました。
「なあルシル、スキルの判断は首に噛みつかなくちゃだめなのか?」
「え、ええそうよ。発動条件は厳しいのよ」
「そ、そうなのか」
「なに赤くなってんのよ、バカっ」
(本当は血液をなめれば判るんだけど、そのことは内緒にしておこう……)