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前任勇者の忘れ形見

 俺の背中を支えてくれたのはピカトリスだった。人革じんかく魔導書グリモワールを持つ男。


「どうしたのゼロ君、あたしに惚れちゃってもいいのよ?」

「女言葉を使ういけ好かない野郎だ」

「ん、もう。素直じゃないんだから」


 ピカトリスが支えてくれたお陰で爆発の勢いはかなり抑えられていた。まさかつばぜり合いでここまでの爆風が起きるとは思ってもみなかったからな。


「どうしてここに?」

「ゼロ君が困っているだろうと思ってね。駆けつけちゃった」

「お前はいつも突然だな」

「そうね、まるで一目惚れのように。恋って突然なものなのよ」

「……何を言っているのかよく判らないが」

「大人になったら判るわよ」


 ピカトリスは俺にウインクをすると身体の埃を軽くはたいた。


「バイラマ様、お久しぶりね。この世界に来るのは何年ぶりかしらね?」

「ここ最近は足しげく通っていたのだがな」

「そうなの?」


 ピカトリスは親しい友人かのようにバイラマと会話を交わす。


「どういう事だピカトリス、バイラマとは旧知の仲なのか!?」

「そう怖い顔をしないでよゼロ君」


 ピカトリスはおどけたように肩をすくめる。だがその視線は真剣そのものだった。


「バイラマ様はね、この世界をお創りになられた神々の一柱なのよん」

「世界の管理者、らしいな」

「あら、ゼロ君もいろいろ知っているのね?」

「ストリィという消えた神から聴いた。破壊神は管理者権限があるとか、な」

「そう……」


 ストリィは浮き島を操っていた風の神だ。奴が消える時に管理者の事を言っていたが、その後のバイラマとのやりとりで破壊神であるバイラマがその管理を行っている者だという事は理解できた。


「特殊な用語は俺に判らないがな」

「そうね、あたしも理解は出来ないけれどなんとなくの意味は知っているの。バイラマ様がこのところ急にログインをしているとか、世界をデリートしようとしているとかね」

「デリート? 何だそれは」

「あたしもよく知らないわ。でもこの世界、次元を無にしてしまう、無かった事にしようとしているらしいの」


 バイラマが長い黒髪を手で後ろに跳ね上げる。

 ただ立っているだけなのにその威圧感が凄まじい。


「ピカトリス、キャラクターの立場でよくそこまで情報を集めたな。その知識に対する貪欲な姿勢は賞賛するに値する」

「それはどうも、バイラマ様」

「オウルから聴いたのだろうな?」


 バイラマの問いにピカトリスは素直にうなずく。


「ええ、なにせ勇者オウルはあたしの冒険者仲間でしたし……」


 ピカトリスが横目で俺を見る。


「このゼロ君のお父さんですもの!」

「ほう!」


 バイラマが驚きと喜びに満ちた顔で笑う。冷たい季節から暖かな春を思わせる、そんな柔らかい笑いだった。


「それは面白い話を聴かせてくれた! ピカトリス、褒めてつかわすぞ」

「それはどうも」

「よもやあのオウルの朴念仁がなあ、ブライダルイベントを済ませて子供まで作っていたとは。道理であの時、プレイヤーキルにもかかわらず予に敵対した訳だ。ごれで合点がいく……ふむ」


 バイラマは目の前で手を忙しく動かす。

 これだ、神特有の動き。空間に何かがあるかのような手の動きだ。


「なるほど、それでこのゼロとやらにプレイヤーフラグが立っていたのか。だが実際には誰もログインしていない、スタンドアローンで行動している。確かにプレイヤーキャラクターをノンプレイヤーでマスター権限を使って動かす事はあるが、残るマスターも予のみ。そのようなプレイはしておらぬのでな。これは不思議だ、興味深い……」


 バイラマは自分の周りに氷の剣を十本造り出した。


「やはりキャラクターでは歯応えがなかった。だからプレイヤー同士の戦いを望んでおったが、そうか勇者よ、プレイヤーでもありキャラクターでもあるそなたが予の楽しみを新たに作りだしてくれるというのか!」


 バイラマは頬に出来た小さな傷を長い舌でなめる。


「ゼロ君見た?」

「何をだピカトリス」

「バイラマ様、いやバイラマよ」


 ピカトリスが耳打ちする所でバイラマが氷の剣を発射した。


「なるほどな、確かに!」


 俺は向かってくる氷の剣に突進する。

 弾かれたとはいえ俺の渾身の一撃は。

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