真剣勝負
俺の攻撃はバイラマに効かないがバイラマの攻撃は俺に届く。これは基礎的な戦闘能力と言うよりはスキルに関連するもののように思える。
「俺の攻撃は弾かれたが、覚醒剣グラディエイトは魔力を注入してその威力を増やす事が出来る」
「ほう。だが先程は予の持つつららに弾かれた。そして予の冷気が作る壁を打ち破れなんだな」
「さっきはさっき。俺の標準的な攻撃だったからな」
「全力のように見えたが?」
「持てるスキルは目一杯使ったよ」
俺は構えた剣越しにバイラマを見据えた。相手の姿を捉える事で剣に魔力の注入がイメージしやすくなる。
あの敵を討ち滅ぼすために、俺の魔力を注ぐ。この剣に対して。
そう頭の中で念じていく。
「お、ほぅ……」
俺の剣が放つ光は今までの揺らぎに似たものではなく、眩しい輝きに変わっていく。
光そのものの性質が鋭く尖って行くようだった。
「筋力だけではない、俺の精神力も含めてこの一撃に賭ける。どうだバイラマ、お前には受けられるか……」
「ふっ、安い挑発だがいいだろう。受けて立とう」
バイラマは手にした氷の剣を下に向ける。
「構えは取らないのか」
「必要かね?」
「別に。それが後悔につながらなければな」
「楽しませてくれ」
俺は光り輝く剣を横に振りかぶって突進した。
「Sランクスキル超加速走駆」
「速度も威力につなげようという所かな」
バイラマの言う通り、勢いが付けばそれだけ相手に与える力も増える。
「SSSランクスキル重爆斬。勢いは剣にも付ける。そして剣の勢いはこれで……Sランクスキル凍晶柱の撃弾!」
俺は重爆斬で剣を振るう。その剣には後ろ向きの凍晶柱の撃弾を発射させて更に速度を上げる。
丁度バイラマに当たる時、超加速走駆の加速分が乗って、一点に力が集中するようにつなげた。
「堅っ!」
バイラマは氷の剣で俺の攻撃を受ける。
俺とバイラマがぶつかったその一点を中心に光の大爆発が起き、大爆風が辺りに広がった。
「ぐっ、く……」
俺の噛みしめた口から気合いの音が出てくる。
バイラマの表情も真剣だ。必死に押し戻そうとしていた。
互いの力が空を伝って、周囲の物質を巻き込もうとする。地面から石が持ち上がり、空の雲も俺たちに吸い寄せられるかのように渦を巻き始めた。
「ぬ、くくく……」
俺たちの剣は凄まじい力でぶつかっているが、そのあまりにも強すぎる力のせいで剣そのものは止まっているようにも見える。実際、小刻みに揺れてはいるものの、吸い寄せられるように剣が留まっているのだ。
「ぐはぁっ!」
最後の力を振り絞った所で剣と剣の間に爆発が起きた。
爆発は瞬時に巨大な圧力となって俺たちを引き剥がしにかかる。
空も割れるかのような剣の弾ける音。
どうにか剣を手放さずに握り続けていたが、大きく弾かれてしまう。
「身体が……爆風に、うわぁっ!」
俺は爆発の勢いで後ろに飛ばされた。受け身を取ろうと身体の重心を調整して空中で体勢を整えようと動かす。
吹き飛ばされた時に生じた真空波や魔力の塊が俺にもぶつかってきて、顔や腕に無数の傷を作っていく。
「弾かれた威力が……でかい!」
俺は勢いで遠のきそうになる意識をつなぎ止め、身体を起こそうとする。
横目で一瞬見る限り、バイラマも同様に吹き飛ばされているようだった。
「追撃はどうにか躱せそうだが、受け身、取らねば……」
俺の背中に何かが触れ、俺を包み込むように抱える。
手、だろうか。誰の手か。
俺と共に跳びながらそいつがそっとささやいた。
「まったくゼロ君は。あたしがいないと無理ばっかするんだから」