崩壊の後で見たもの
「まさか地下迷宮ごと地殻まで破壊するとは予も想定の外であったな」
光の漂白が終わり、徐々に視界が戻ってくる。
「神を自称する者の中でも別格だとは思っていたよ、バイラマ」
「賞賛と受け取っておこう」
俺の周りは活火山の火口のように煮えたぎる溶岩で満たされていた。
俺がかち割った大地が血を噴き出すように熱で白味を帯びた赤い溶岩が溢れ出る。
足下だけがかろうじて溶けていない岩場になっていた。
「ルシル」
俺は口に出しつつも頭の中で呼びかける。
「聞こえているよゼロ。とんでもない事をしてくれたね」
「段取り通り、退避してくれていたか」
「ちょっと時間がぎりぎりだったけどなんとかみんな無事よ」
ルシルたちには円の聖櫃をかけた上でウィブたちに上空へと逃げてもらっていた。
思念伝達で伝えていたのだが、どうやらバイラマたち神はスキルを使えないらしく俺たちの思念伝達の内容を知る事は出来なかったらしい。
「それでそっちはどうなの? みんなはもう近付けないと思う。私だけなら……」
「そうだな、また後で話をしよう」
「そう? という事は、まだなのね」
「察しの通りだ」
俺はルシルにありのままを伝える。
「俺の目の前にはバイラマ……多分バイラマだろうな。奴が宙に浮かんで立っている。こんな所でのうのうと生きていられるような奴だからな」
煮えたぎる溶岩の上をバイラマが浮いていた。その身体は少し光っているようにも見える。
下を向き長い黒髪をなびかせて、すらりと伸びた肢体を力なくうなだれていた。
「まさかなぁ……」
くぐもった声と共にバイラマがゆっくりと頭を持ち上げる。
「ほう、この眼で直接見るは初めてだが……なるほど勇者ゼロ、そなたはなかなかのいい男振りだな」
顔を上げたバイラマを見て俺は息を呑む。
「お前……は!」
「当然、見知っておろうのう」
バイラマが両手を広げると辺りに冷気が漂い始める。
「それっ」
バイラマが胸の前で手を合わせ、その一拍で周囲が一瞬にして氷の大地と化す。
噴き上げた溶岩はそのまま凍った噴水のように固まってしまった。
「これで歩きやすくなっただろう」
凍った大地に降り立つバイラマ。
「き、貴様……」
「そう目くじらを立てるでない。この身体は予のアバターであるぞ」
「ア、アバター……?」
「まあそなたは知らぬでもよいが、予は世界を創造した後にできあがったばかりの世界を漫遊しておった。行く先々で大地を造り山を盛り木を生やし、そこに住まう者共を生み出した」
バイラマは氷の玉座を造り出し、そこに悠々と腰をかけた。
「それからいろいろあってな、予は原初の人間を予の現し身に似た姿で造ったのだ」
俺の目の前で氷の玉座に座っているそれは、俺が今から六年前に討伐した魔王と瓜二つ。
長い黒髪、額に位置する一対の角。
動物の毛皮のようなコートを羽織っているがその中から見える長い手足はなまめかしい色気を帯びていてふくよかな胸とくびれた腰が女性らしい身体の線を作っていた。
「そう、この姿はそなたもよく知っておろう」
バイラマの金色の瞳が妖しく光る。