神との対話
勝利者と呼ばれていた神たちがこれでいなくなった。そうなれば神を自称する者はもうこの世界にはいないのだろうか。
否。
「バイラマと言ったな」
俺は誰に言うでもなく空に向かってつぶやいた。
「これでお前の手駒となる神とやらはいなくなっただろうが、こうなればもう俺たちの世界に手出しは出来まい」
風が語りかける。
「ふふふっ面白いな。勇者ゼロか」
風の中から声が聞こえてきた。前に聴いた空中の影と同じ声。
「お前が最後に残った神……バイラマ」
「そうだ。予こそが暗黒の破壊神、バイラマだ。今は現し身を自由に使えぬ状態でな、声だけでそなたと話をしておるが」
「俺の要件は今言った通りだ。どういう理屈かは知らんがお前たちのその現し身とやらはもういないのだろう?」
「ああ。消えゆく前に神の一柱が余計な事を口走ったようだが、まあ気にするでないぞ」
気にするな、か。
「そうもいかんだろう。お前たちには散々迷惑を被ったのでな、完全に俺たちの世界から手を引かなければ俺にもそれ相応の対処はするぞ」
「ほう……」
声だけだがバイラマに笑いの要素が加わっている。
「いいだろう勇者ゼロよ。そなたの願い、叶えてやらぬでもない」
笑いをこらえたようなくぐもった声。
「本来であれば神の使者として勇者が仕えるものだが余興としては悪くない。勇者が神に逆らうというのであればその力の程を試してやろうではないか」
「俺をなめると怪我では済まんぞ」
「予はそれを楽しみにしておる。見よ」
声だけで見ろと言われてもどこを見ればいいのだ。
「違う、そちらではない。後ろだ後ろ」
俺は言われるがまま後ろを振り返る。
「な、にっ……」
そこには砕けた島の残骸があったはずだが、残骸どころか大きな穴が地下に続いていた。
「よいか勇者よ。神は天にいる者、しかしその天から堕ちた神は地の奥の長となる」
バイラマの声が地の奥底から響いてくるような不気味な響きをはらみ始める。
「創造にして破壊の神、このバイラマがそなたの相手をしてやろう。さあ! 最後の迷宮へと足を踏み入れるのだ!」
バイラマの声は地震にも似た振動があり、心弱い者には恐怖で身体が固まってしまうだろう。
それだけの圧力がこの声にはあった。
「ゼロ……」
「心配するなルシル」
俺は覚醒剣グラディエイトを抜き払って一振り宙を斬る。
「どれだけ巨大な地下迷宮を用意した所で俺にはかなうまい」
俺の意思を感じたのかルシルが一瞬青ざめたように思えた。
「みんな、下がってっ!」
ルシルが周りの連中に声をかける。
俺はその様子を見ながら魔力を高めた。
「Sランクスキル発動、重筋属凝縮」
俺の筋力が盛り上がり身体から湯気が出る。
「加えて皆の忠誠を力に変えるぞ! SSSランクスキル発動、王者の契約者っ! みなぎれ、俺たちの誠の心よ!」
治める国に住む全ての者から力を受け取った俺は溢れんばかりの力に勇気と感謝の念を抱く。
「地下に埋もれたまま消え去るがいい。SSSランクスキル発動っ! 重爆斬! 大地よ、割れよ! 砕けよ! 消滅せよっ!」
渾身の一撃が地下迷宮の入り口に叩き付けられる。
「うおぉぉぉ!」
俺は深々と剣を刺し、更に溜めた力を放出した。
国民全ての力を結集した一撃で大地はひび割れ、そのひびから力の光が放たれる。
ひびはどんどんと大きくなって巨大な地割れとなって谷を造っていく。
「ゼロ……地面が、なくなっちゃうよ……」
ルシルの声を聴きながらも俺の力は止まらない。
どこからかかすれた声が聞こえる。
「おい、ちょ、ちょっと待て、お前いったい何をっ、おわっ!」
焦るバイラマの声。そして俺を中心に光の球が弾けて世界を白く染めた。