糸と糸
ウィブが真っ先に降りてくる。ウィブの抱えている籠の中にはアラク姐さんやサトシたちがいて、籠の上にはルシルもつかまっていた。
「勇者よ、儂にできる事」
ウィブの言葉をさえぎり俺はウィブにまたがる。
そうしている間にも氷の矢が上空の至る所に飛び交う。それに続く破壊の音と阿鼻叫喚。
「アラク姐さん!」
「あいよっ!」
アラク姐さんは籠から飛び出してウィブの背中に乗り、俺の背中につかまった。
今は押しつけられる胸の柔らかさに気を取られている場合じゃない。
柔らかいが。
「ララバイ、マージュと二人であのブラックドラゴンに!」
俺の掛け声にララバイが反応する。それに合わせてブラックドラゴンの身体の凱王が地面に降り立った。
「そうか、マージュの!」
「そうだ! 捕縛撚糸で一人でも多く助けて欲しい!」
「承知した! 頼みますよブラックドラゴンさん!」
「致し方ないねぇ!」
ララバイとマージュが凱王の背中に乗る。
俺は言葉を発する事ももどかしく、焦るようにウィブの首を叩く。
「落ち着いてゼロ」
ウィブの背中に乗り込んだルシルが俺に声をかけてくれる。その優しい声に俺の気持ちが少し冷静さを取り戻した。
「ありがとうルシル」
「うん」
「よし、ウィブ頼む」
「おうさ!」
落下し続ける人々が地面へ叩き付けられる前に救うのだ。
「アラク姐さん、落ちてくる人を糸で捕まえてくれ!」
「判ってるよゼロちゃん」
そう答えながらもアラク姐さんは四方八方に糸を繰り出し、空中で人々を捕らえてまわる。
ウィブが空中で旋回し健在なドラゴンたちの籠の上を通過した。そこでアラク姐さんが糸を切れば、救出された人は籠の上に降り立つ事ができる。
「ルシル、氷の矢にやられているドラゴンやワイバーンたちだが」
「死ぬ前に蘇生治癒をかければいいよね」
「ああ、でも距離があるが大丈夫か」
「これくらいSSSランクのスキルだもの、魔力を増幅してどうにかしてみせるわ!」
ルシルは魔力を集中させて距離のある相手に対しても蘇生治癒をかけていく。
これで氷の矢に貫かれたドラゴンたちも命を落とさずに済むだろう。
「復活したドラゴンたちは空中で人々を拾い上げろ!」
「聞いたかお前たち、勇者くんの指示に従うんだ!」
俺の命令に凱王も後ろ盾となってくれる。
ドラゴンやワイバーンたちからも雄叫びが上がった。
「くそっ、どういう事だ! もう戦線離脱した奴らだろうが!」
上空に漂っている島から声が聞こえる。
「そこか!」
俺は落下する人々はララバイたちに任せてウィブを新しく現れた浮き島へ向かわせた。
「この氷の矢を放ったのはお前かっ!」
浮き島を上空に抜けて島の上を見下ろす。
そこには光り輝く人型の生物が立っていた。