着地と増援
迫る大地に向かって俺は右手を突き出す。
「Rランクスキル発動、凍結の氷壁! 氷の壁よ俺の足場となれ!」
俺は作り出した氷の壁に乗り上に跳ぶ。落下する岩を跳んで渡った事と同じだ。これを繰り返して上昇していけばある程度、落下速度は緩める事ができる。
「後は重爆斬で着地の衝撃を吸収すれば……」
そう考えた所で俺は右手が剣に届かない事に気付いた。シーナが密着しているために左腰に差した剣に手が届かないのだ。
「それに重爆斬の衝撃はこの娘にちときついか」
戦闘に慣れていない一般市民では急激な高低差に身体が耐えられないという事はないだろうか。
「ええい、このまま落下するよりは……お。おおっ!」
俺たちの身体が一瞬風に包まれる。
「Rランクスキル、精霊の飛翔!」
柔らかな風に包まれて俺とシーナがふわりと着地した。
「ご無事で、ゼロさん」
そこに立っていたのは華美ではないものの質のよい仕立ての服に身を包んだ男と女魔法使い。
「ララバイ、それにマージュ!」
「ご無沙汰していますわ、ゼロさん」
マージュが唱えてくれた精霊の飛翔で俺もシーナも怪我一つなく着地する事ができた。
「ウィブさんが救援を依頼されにきた時は驚きましたよ」
「ララバイが言うことももっともだ。急にワイバーンが飛んできたらそれはびっくりもするだろうよ。だが助かったぞ、よく来てくれた」
俺は駆けつけてくれた二人をねぎらう。
一人はマルガリータの王、ノワール・ララバイ・マルグリット。もう一人の女魔法使いがララバイに仕えるマージュだ。
「我が軍の精鋭も到着していますよ。浮き島の事を伺いましたのでね」
「そうか、それはなによりだ。今からウィブや凱王……西の大陸で一国を治めていたブラックドラゴン、いや、ブラックドラゴンの身体に乗り移った王と言うべきか、まあそのドラゴン王たちが籠の中に民を入れて降りてくるのでな、その手助けをしてもらえると助かる」
「それはもちろん。して、ルシルさんは?」
俺は降りてくるウィブたちが吊り下げている籠を指さした。
「あそこにいると思うが。皆無事に降りてくる所から、だな」
「そうですね」
俺たちはゆっくりと降下してくるウィブたちを見守っている。その横では砕けた浮き島の破片が降り注いでいた。
「これで決着とは味気ない」
空からそんな声が聞こえる。
それと同時に氷の矢が無数に空を飛び回った。
「ぐきゃっ!」
「うわぁっ」
ワイバーンやドラゴンに氷の矢が突き刺さり、籠の中の人々にも容赦なく貫いていく。
「なっ! 何やつだ!」
空に充満する阿鼻叫喚の中、俺の叫び声が響いた。
「ゼロさん、あれを!」
ララバイの示す先にまた一つ浮き島が空に漂っている。
「他の神か……」
俺は歯ぎしりをしながら落ちてくる人々を見ているしかなかった。