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空中散歩

 島の崩壊が止まらない。ホーツクの町にも大きな亀裂が入り、町の半分は空中に投げ出されてしまった。


「ジャガード、切り離された地区に人は!」

「もういやせん!」


 ジャガードの報告を信じるしかない。全員を救う事は無理だとしても一人でも多く助かる道を探したい。

 飛竜たちが持ってきた籠に民衆が押し寄せる。


「早く乗り込め! 急げ!」

「押すな! ちょっと待て!」

「うわぁ、ママぁ~」

「落ち着け、落ち着かんかぁ!」


 あまりの混乱ぶりに業を煮やした凱王がブラックドラゴンのブレスを上空に向かって放つ。

 一瞬だが民衆の動きが凍り付く。


「生き残るために怪我をしたり死んではつまらんだろう。ここは落ち着いて順に進むのだぞ」


 凱王は幼子おさなごをたしなめるよう柔らかな態度で接する。

 民衆は冷静さを取り戻して凱王の指示に従う。


「ほう、流石は一国の主を務めただけの器量はあるという事か」

「褒めた所で何も出ないからねえ」


 凱王はいつもの口調に戻って返事をするが、心なしかその鱗に覆われた顔がほころんでいるようにも見えた。


「ゼロ様、西地区の住民は全て避難しました」


 サトシが伝令役を買って出てくれたのだ。


「ゼロ様がご指示下さった藁束のお陰で大きな揺れがあった時に転んでもみんな怪我をしないで済みました」

「物が落ちてきた時、藁束を背負っていて助かった人もいるんですよ」


 シーナも併せて報告してくれた。


「そうか、それは助かった。ありがとう」


 俺は二人の頭をなでてやる。

 二人とも疲労の色は見えるが嬉しそうに顔をほころばせた。


「アラク姐さん、この二人も頼む」

「あいよ、任せておきな!」


 俺は先に籠へ乗り込んでいたアラク姐さんにサトシたちを委ねる。


「さあお前たちも避難するんだ。あの籠がまだ空いている、行くといい」

「はいっ!」

「ゼロ様もご無事で」

「ああ」


 俺は二人の肩を軽く叩くと、籠へ向かうよう背中を押す。

 サトシが籠に乗り込みシーナに手を差し伸べたその時だった。


「サッくん!」


 シーナの足下の地面が砕ける。サトシたちの乗った籠も割れた地面の上で倒れそうになった。


「シーナっ!」


 サトシが手を伸ばすがシーナの手は届かない。

 落ちそうになる籠をウィブがつかんで引き上げる。


「小僧、それ以上身を乗り出すな! お前まで落ちるぞ!」

「でもシーナがっ!」


 籠に乗り込んだ者たちはウィブが持ち上げているからどうにかなるが、問題は割れ目に落ちた者たちだ。


「くっ、多すぎる!」


 アラク姐さんが糸を出して落下した者たちをぶら下げる。それでもたくさんの人が落ちてしまっていた。


「残りは……五人、六人か……」


 俺は駆け出して崩壊しかけている岩に飛び乗る。


「Sランクスキル発動、超加速走駆ランブーストっ! 少しでも足場があれば岩の上でも渡って行けるっ!」


 落下する岩の上を跳んで移動していく。俺が足場にした岩は跳んだ勢いで砕けて散る。

 宙に投げ出されている連中を小脇に抱えて飛び跳ねた。


「ウィブ、その籠の上に投げる! 受け止めろっ!」

「おう!」


 ウィブは高度を下げて俺の近くに籠を寄せてくれる。


「ゼロ、いいよっ!」


 見るとルシルが籠の上に立って待ち構えていた。


「助かるっ! そぉれいっ!」


 俺はつかんでいた二人を籠の上に放り投げた。


「次行くぞっ!」


 三人目の腕を空中でつかみ身体をひねって上に放る。

 四人目、五人目と次々と投げては落下してる岩に飛び移った。


「凱王っ! 残りの退避状況はどうだ!」


 次の岩へ跳んでいる間に俺が上にいる凱王へ尋ねる。


「こちらは全員乗り込んだからねえ、上空へ退避するからねえ!」

「よし、だとすると後は……」


 俺は落下するシーナの姿を目で追う。


「俺たちだけだなっ!」


 俺はシーナに向けて大きく跳躍する。

 シーナが手を伸ばす。

 俺の手がシーナの手に届いた。すぐさま引き寄せて身体ごと捕まえる。

 空中で抱きかかえるようにした所でふと下の方を見ると、雲の切れ間に地面が見えてきた。


「ほう、そろそろ大地が近付いてきたか」


 シーナは俺にしがみついて離れない。それもそうだろう、空中に放り出されて落下している所を助けられたのだから俺以外に頼るものがなくそうするしかなかったのだ。


「とはいえ、このままではまずいな。ウィブ、誰かよこせるか!?」


 声を張り上げるが誰からも応答がない。


「……流石に届かないか。アラク姐さんの糸もこの距離では……。上もかなり混乱しているようだからな、こればかりは仕方がない」

「ゼロ様」

「どうした」

「済みません……わたしが落ちてしまったから……」


 俺にしがみついたままシーナが涙声で震える。


「謝る事はない、お前が悪い訳ではないのだ。それに見てみろ」

「ん……」

「空はどこまでも高く、大地はどこまでも広い。あの森の向こうには海があって隣の大陸では別の国があるんだ」

「あ……」


 恐る恐る目を開いて周りの様子を見たシーナが息を呑む。


「綺麗……」

「そうだろう。世界はこんなにも広くて美しいんだ」

「ゼロ様、最後にこんな素敵な景色を見られて、わたし……幸せでした」

「そうか、それはよかった。だが……」


 俺はシーナを左腕で抱えながら右手に力を入れる。


「これを最後にはせんぞっ!」


 迫ってくる大地。俺はその地面に向けて右手を下ろした。

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