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崩壊の始まり

 俺はホーツクの町の領主の館とその周辺にこの浮き島にいる国民を集める。カインとアラク姐さんも合流して避難民の誘導に当たってもらっていた。

 領主の館には入るだけ入ってもらい、それでも入れない民は庭や納屋にも避難してもらう。

 俺は領主の館の前で出入りする連中を確認していると、ジャガードが駆け寄ってくる。


「市民はこれで全員か」


 俺の問いに冒険者ギルド所属のジャガードが応えた。


「へい、帳簿にある者はいると思いやす。ですが、町外れの猟師とか森に入っている奴らとかまでは」

「なるべく広範囲に声をかけてくれ」

「他のギルドにも頼んでやすんで、できる限りは」

「頼んだぞ」

「へい! 失礼しやす!」


 ジャガードは敬礼をして立ち去ると、周りの連中に声をかけて指示を出していた。


「ゼロ」


 ルシルが俺の隣で腕に捕まっている。


「大丈夫だ、大丈夫」


 俺はそんな心配そうに俺を見るルシルの手をそっとつかむ。

 浮き島の落下は止まらない。加速を付けてどんどんと落ちていっているのだが周りが空しかないためにどれだけの速さで落ちているのか皆目見当が付かない。


「ぼ、僕たちでできる事があれば何でも言って下さい!」

「わ、わたしも!」


 畑仕事をしていたサトシとシーナもここに来ていた。彼らも何かの役に立とうと必死だ。


「助かる。それでは藁束をたくさん用意してくれるか」


 俺が指示を出すが二人とも不思議そうな顔をする。


「納屋や牧草の保管庫から持ってくるといいだろう。これから来る振動や衝撃に備えたい」

「ああ! 判りました!」


 俺の説明で納得がいったのか、二人は納屋に向かって走って行く。


「大丈夫かにゃ?」


 猫耳娘の姿のカインが両手を頭の後ろで組みながら去って行ったサトシたちを眺めていた。


「ああして役割があると仕事に集中できて余計な不安がなくなるというものだ」

「この揺れがずっと続くと、心配にもなるからにゃぁ」


 確かにカインの言う通りだ。継続する浮遊感。そして揺れる地面。落ち着けという方が無理なのだろう。


「たっ、大変でさ!」


 そこへジャガードが血相を変えて駆け寄ってきた。


「島、島が……」

「どうした落ち着け」

「崩れ始めやした! もう外縁の森はなくなっちまった!」


 思ったよりも崩壊が早い。ストリィが消えて制御ができなくなった事もあるだろうが、振動によって地面そのものが落下に耐えられなくなって大きな亀裂を造っているのだろう。


「うわっ!」

「きゃぁっ!」


 雷のような音が響き住民から悲鳴が上がる。

 町のすぐ外側に大きな裂け目ができてその下の方、ずっと奥から空がのぞいていた。

 地面の茶色に空の水色が鮮やかだ。


「とうとうここまで崩壊が来たか……」


 避難した者たちの恐怖に怯える声が耳に入る。

 中には諦めてしまって神に祈る者さえいた。


「祈りか。その神がこんな事をしでかしているんだが……そうぼやいても詮無き事か」

「ゼロ……神といっても滅する事はできる。神も完全じゃないんだからこれを切り抜けたら仕返しの一つでもしてやろうよ!」

「そうだな、やってやるか!」


 俺が次の対策を打とうとしている所で上空から声が聞こえてくる。


「勇者よ!」

「勇者くん! 来たぞ!」


 高空から急降下してくる巨大な影がいくつも見えた。


「ウィブ! 凱王もか!」

「勇者よ、命令通り連れてきたからのう! ワイバーン部隊百と……」

「ブラックドラゴンを筆頭としたドラゴン十頭が駆けつけてきたからねえ! 久しぶりだねえ勇者くん!」


 ウィブがトライアンフ第八帝国に連絡を取り応援を呼んできてくれたのだ。


「ウィブ済まないな。ブラックドラゴンへの恐怖はまだ消えていないだろうに」

「それは儂の問題だからのう、勇者の頼みには応えなくてはと思ってのう」

「そうか、ありがとう」


 俺は降り立ったワイバーンの首をなでてやると、ウィブは気持ちよさそうに目を細めた。


「さあのんびりしていられないのだからねえ、急ごしらえの籠で悪いが人間たちにはここに入ってもらうからねえ!」


 凱王がブラックドラゴンの姿で吠える。

 威圧感は無いため恐怖は植え付けないもののその巨大な身体と雷鳴のような声に耳目が集まった。

 他のドラゴンやワイバーンたちが十人二十人は入りそうな籠、というより大きな檻を次々と領主の館前に並べる。


「さあ乗り込め! 入った籠から順に飛竜の快適な旅が待っているからねえ!」


 畏敬される対象のブラックドラゴンがこの時ばかりは頼もしく感じられるのだろう。領主の館に避難していた民たちが籠へと集まってきた。

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