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ドロップアウトと緊急避難

 ストリィに命じて浮き島を降下させる。

 だがどれだけの猶予があるというのか。


「少し降りる速度が落ちていないか?」

「そ、そうだが……我にも都合というものがあってだな」


 俺はもう一度ストリィの襟首をつかむ。


「お前の都合など知った事か。ホーツクの町に住む者たちには都合がないとでも言うのか!」

「判った、判ったから……本当に降下させるぞ」

「くどい、何度も言ったはずだが」

「これより下の空域に行くという事は戦闘放棄とみなされて戦いからは脱落することになる」


 浮き島の降下速度が落ちた理由はそれか。

 ストリィは焦るような顔で俺を見る。


「我が脱落したという事はすぐさまバイラマたちに知れ渡る。そうすれば我は真っ先に消されるのだぞ」

「ルッサールは消されたのにお前はまだ健在だが、それはどういう事だ」


 ストリィは伏し目がちになり言葉を探す。


「我はまだバイラマと直接話をしていないからな、お前たちと接触してからは」

「なるほど、俺に負けてからはまだ破壊神と会っていないから消されずに済んだという事か。ならば戦いから外れた時にもバイラマが来なければ」

「そういう訳にもいかないのだよ」


 ストリィは俺の手を振り払って襟を直した。


「戦いから外れれば姿を現さなくとも管理者権限で参加者を削除できる。我はどのみちこの次元の戦いからは手を引く。引かざるを得ない。お前たちに勝てなかった時点でな」


 諦めのため息をつくストリィ。


「我はまた別の機会もあろう。だがこの次元に生きるお前たちはそうもいかぬだろうからな。我のせめてもの足掻きを記録にしておきたくてな」

「歴史に名を刻む、みたいなものか?」

「ふむ、まあそのようなものだな。参戦したからには手ぶらで帰りたくはないのでな」

「その程度のものか。だが俺たちにとってお前がその程度で退いてくれるのであれば、それこそ都合がいい」


 ストリィは意を決したのか、両手を地面に付けると何やら呪文のようなものを唱え始めた。

 その詠唱に併せて浮き島の降下速度が上がる。


「戦闘空域から離脱、あとは我の制御にて軟着陸させる。平地へ降ろすのでな、この半球状の浮き島では地上部の崩壊は免れん。割れる前に国民とやらを避難させるのだな」

「元の場所へとは戻せないのか!」


 俺はストリィに詰め寄るが、ストリィは降下に集中している状態だ。なるべく行動を邪魔しないで見守った。


「当然だろう、島は移動しているのだよ」


 事も無げにストリィは言い放つ。


「あの穴にそのまま降りてくれれば被害は少ないだろうに……ここに至っても他人事かっ!」

「島を降ろすとは言ったがそれ以上の事は我にもできぬ! なればせめてお前たちのあらがう姿というものを見て……なっ、もう来たのかっ」


 ストリィが言葉を止める。腕や背中から空気が漏れ出るようにストリィの身体が崩れ始めた。


「管理者処理の方が早かったか!」

「まさか、消滅が始まったのか!」

「やはりな、戦いからの撤退はこの身体の……よいか人間、いやゼロと言ったか」


 ストリィは両手を地面に置いたまま俺を呼ぶ。その間も浮き島は降下を続ける。


「ゼロよ、我の消滅せしのちはこの島の制御も失われる。神の力は残滓ざんしすら感じられぬであろう。全てはそなたらに任せよう。我はそれを高位の次元より見守っておろうぞ」

「馬鹿野郎、何を勝手な事を! ぐだぐだ言ってないでやっただけの仕事はしろよ! 無責任過ぎるだろう、勝手に島にして勝手に消えるとか!」


 俺は徐々に消えゆくストリィに噛みつかんばかりの剣幕で罵声を浴びせた。


「ははっ、それだけ勢いがあれば国民も」


 ストリィは風に溶け込んで消えてしまう。ついにバイラマから存在を消されたのだろう。


「ふ、ふざけんな!」


 俺はやり場の無い怒りに歯噛みする。握った拳から血が出る事もそのままに。

 その時、大きく浮き島が揺れた。


「ゼロ! 制御する者がいなくなって島が落ちているよ!」

「速度は落ちていないが揺れが酷いな……これでは立っていられるのもやっとだろう」


 俺は揺れる地面の上で次の一歩を踏み出す。

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