もう一つの塊
ストリィが自分の発言に居住まいを正す。
ここは領主の館の中でも窓が無い部屋で、日が入らない分石造りの壁が冷たく感じられる。
だがストリィが震えているように見えるのは、この涼しい部屋のせいでもなさそうだ。
「なぜそう震える」
「我はもうこの次元での生を諦めておる。そなたに捕らえられてからな」
「自暴自棄になって破壊神の事も口走ったとでも言いたいのか」
「その通り。もはや我に望みは無い。ほれこうしている間にも破壊神の手が伸びてこないとも限らんぞ」
「そんな馬鹿な……」
俺が言葉を発しようとした時だ。
館そのものが揺れた気がした。
「なっ! ゼロこれは!」
「地震……いやここは空に浮かんでいる島だぞ! まさか、ストリィと言ったな風の神よ!」
「ああ。この島は我が浮かせておる」
「ゼロ、この風の神が島を飛ばすのやめちゃったって事!?」
ルシルの慌てる様子が事の緊急性を感じさせる。
もしもルシルの考えが当たっていたらと思うと、俺も背筋が凍る思いだ。
「ゼロ様! 大変だにゃ!」
カインが部屋に飛び込んでくる。
猫耳娘の姿で急いで走ってきたようだ。
「島が、攻撃されているにゃ!」
「攻撃だと!? 空中に浮いた島だぞ、相手はドラゴンか!?」
「そうじゃないにゃ、一緒に来てにゃ!」
「判った!」
部屋を抜け出そうとした俺の腕をアラク姐さんがつかむ。
「この神たちはどうするね?」
「確認してからと思ったが、いいだろう。自由の身にさせてやれ」
「判ったわ」
それだけ言うと俺は四つん這いで猫のように走るカインの後を付いていった。
「見てにゃ!」
大きな扉から外へ出る。
日の光が目に刺さるようだ。
「攻撃って……あれかよ!」
俺が見上げるその先には、このホーツクの町がある浮き島と同じような土塊が浮かんでいた。
「危ないにゃ!」
上にいる浮き島から巨大な岩石がいくつも飛んでくる。
それが領主の館に命中し、屋根を、壁を壊していく。
「このままやられていてはこちらの身が持たないぞ! ウィブ!」
「おう」
俺の掛け声でワイバーンのウィブが物陰から現れた。
「ゼロ! 私も!」
「よし来いっ!」
俺はルシルの手を取ってウィブの背にまたがる。
「カイン、お前はアラク姐さんと一緒に安全な所へ身を隠してろ!」
「ゼロ様は! 大丈夫にゃ!?」
「ああ、この攻撃を止めてくる!」
俺はウィブの首を軽く二回叩くと、それに応じてウィブが翼を大きく広げた。
「振り落とされないようにのう!」
「気にせず全力で飛んでくれ!」
「承知っ!」
翼をはためかせると、その一回ごとに凄まじい速さで高度が上がる。
「ゼロ、飛んでくる岩は任せて!」
「頼む!」
ルシルは巨大な岩石を次々と雷撃で落としていく。
ほとんどはバラバラに分解されて空の彼方へ落ちていくが、軌道を変えられずにこちらへ向かってくる物もあった。
「Sランクスキル発動、剣撃波! 直接斬れない離れた位置の岩でも、この斬撃ならっ!」
俺の放った剣圧が、向かってくる岩石を粉々に打ち砕く。
「さあ反撃と行くか!」
ウィブの羽ばたく音が俺の気持ちを高揚させていた。