舟の上
俺とルシル、セシリアは舟に乗ってアボラ川を上っていく。シルヴィアとカインは城塞都市ガレイで資金調達をしてもらい、商品がなくなれば本拠地に戻ってまた品物を作ってもらうことになっている。
セシリアが操船して川を上っていく。流れはそれほど速くなくオールを漕ぐ力だけでも上流へ向かえる程度だった。
その中でも途中不慣れな川での戦闘も俺たちは難なくこなしていた。
「途中でゼロが大ワニと戦った時はどうしようかと思ったよ。あの大ワニに炎の槍なんか使うから辺りがお湯になったりして大変だったよねー」
ルシルが俺の戦い方をからかうものだから俺も対抗する。
「ハーピーに捕まって連れ去られそうになったのは誰だったかな? それこそあの時俺の炎の槍がハーピーを倒したからいいようなものの」
「それなら舟にいた時に倒してくれたらよかったのに。ハーピーと一緒に川へ落ちちゃったじゃない」
そんな言い合いをセシリアが楽しそうに見ている。
「ほんと、勇者ゼロとルシルは仲がいいなあ。うらやましいぞ」
「別に仲がいいという訳ではない」
「まあそうね、理由があって仕方なく、よ」
「へぇそうなのか。よかったらその理由とやらをお聞かせ願いたいね」
「そんな大層な理由じゃないわよ。単にゼロの妹さんの身体を私が借りているってだけ」
「妹さん?」
「その話は後だ」
俺は前方を指さす。川幅が段々と狭くなってきているところで蛇行していて、その外側に大きな建物が見える。
「あれが情報のあった工場らしいな」
ポーション工場。
薬草を煎じて魔力を持った小動物と共に煮込む。その上澄みを精製して純度の高い回復薬にするらしい。
「そのポーションを作る過程で出てくる廃棄物をアボラ川に垂れ流しているという話だが」
「そうだな勇者ゼロ、上流に来るほど汚染が酷くなっている。見ろこの魚を」
セシリアが櫂で流れてきた魚をすくい上げる。
「全身石のように固まっている……。ねえこれって」
「ガレイで起きていた石華病の症状と同じように見える。それに岸を見ろ」
「うっ……」
そこには鹿や水牛など水を飲みに来たであろう大型動物たちが倒れたまま石のように固まっていた。
「死後それなりに経っているようだが肉食獣に食われていないところを見ると、本能的に固まった動物の肉は食べないのかもしれないな。セシリア、このまま舟で工場に近付くのは危ないだろう。近くに上陸して徒歩で行ってみようと思うがどうだろうか」
「ああ、それがいい。それでは降りる準備をしてくれ。あそこに接岸するぞ。舟は流されないように停めておくとして、持てる荷物は持っていくんだ」
俺たちはセシリアが岸に舟を寄せるまで静かに待つ。舟はゆっくりと岸に上がり俺たちも降りる。
「なんだか地面が揺れているように感じるね……」
ルシルの言う通り、俺も足下がふらふらしていた。
「軽い船酔いだからそのうち治まるさ。さあ舟を舫ってしまおうか」
近くにある大木に舟から引いた綱を回す。これで流されずに済む。もちろん帰りの足として使うつもりだからな。