領主の館
円の聖櫃が解けると力を失ったストリィとルッサールが地上に落ちてきた。
「ぜぇっ、ぜぇっ……」
苦しそうにあえぐストリィ。ルッサールは既に意識を失っている。
「水や風だと厄介だな。どこか部屋に閉じ込められればいいんだが」
「ゼロ、もう抵抗する奴もいなければ、領主の館にでも行きましょう。私疲れたわ」
「そうだな、ルシルの言うように落ち着ける所とできればこいつらが逃げられない場所……」
俺は適当に転がしておいたジャガードたちを起こす。
「流石にお前たちでも自分たちの立場は理解できるよな?」
「う……。うむ」
「拘束は解く。それにこの神を自称する者たちと話をしたい。できれば石造りとかで窓が無いような部屋だ」
「そ、それでは拷問部屋じゃ……」
「用をなせばそれでもいいが、いやこの風の神だと窓があったら逃げられそうな気がしてな。一度きちんと話をしたい。それだけだ」
ジャガードは少し考えたようだが、思い当たる所が見つかったらしい。
「俺ら冒険者が使っている館の中にそういう部屋があったと思う」
「どこだそこは」
「領主の館だ。こんな状況になって領主が戻ってこなくなってから俺たちが代わりに住んでやっていたんだ」
「なるほど、物は言いようだな」
ジャガードたちを先頭に進む事にする。
俺はストリィとルッサールを担いで町の門をくぐった。通りを真っ直ぐ行けばそこに領主の館があるらしい。
俺たちはジャガードたちの案内で町の大通りを進んでいく。ウィブがいるから人の目は集めてしまうがジャガードたちが大人しくしている所を見た町の人々で抵抗やちょっかいを出すような者はいなかった。
「……ここだ」
ジャガードが目の前の建物を示す。
「ほうこれが領主の館か。石造りの頑丈そうな館だな」
「そうだね、どうやら冒険者たちがたむろしていたみたいだけどね」
館は元々彫刻や装飾品で飾られていたのだろうが、カーテンは破かれ飲み食いした跡がそこかしこに残っていた。
「これでは場末の安酒場と変わらないな……」
「そうだね……」
「まだこのアラク姐さんの洞窟の方が片付いているってもんだよ」
部屋の惨状に落胆する俺たち。
とりあえず神々を押し込められる場所を案内してもらう。
「ここならどうだ」
「ほう、確かに使えるかもしれないな。使用人の控え室か物置みたいな所だが、窓もないし石壁で覆われている」
俺は担いでいたストリィたちを下ろす。
「じゃあまずここで話をしようか」
適当に椅子を持ってきて腰掛ける。他の者も壁により掛かったり木箱の上に座ったりしていた。
俺は縛ったまま椅子に座らせたストリィとルッサールの肩に触れて少し揺する。
「あ……」
「ん、んん……」
二人とも意識を取り戻してうっすらと目を開けた。
「暴れないでくれよ。俺に敵対するつもりは無いからな」
「何を……後ろ手に縛っておいてよく言う」
「そんな事を言っても手の拘束くらいは簡単に解けるだろう?」
「確かにそうだが」
ストリィが身体を少し揺すると縛っていたアラク姐さんの糸がほどけて落ちる。
思った通り元々が風や水、身体の形や大きさなど好きに変えられるのだろう。
「それで、警戒してこんな部屋に我らを閉じ込めてどうしようというのだ」
「別段どうこうするつもりはないさ。少し話ができたら自由にしてもらっていいと思っている」
俺は改めて居住まいを正す。
「俺は勇者王ゼロ、三年前に大陸全土を統一した王だ。だがまあこの様子を見ると統一したつもりになっていた王、と言った方が適切かもしれないがな」
ジャガードたち冒険者は小さくなってうなだれてしまう。
「こいつらはもう力の差を理解しているし、いじめるのはよくないだろうからな、本題に移るか」
俺はストリィの目を正面から見る。
「なぜ神が俺の国に手を出した」
一瞬で場の空気が固まった。