風を搾り取る
俺たちの動きを見てストリィが身構える。
小脇に幼女体型となったルッサールを抱えて急上昇を始めた。
「間に合わなかったか!」
俺は発動させるスキルを瞬時に切り替えて動きを牽制する。
「Rランクスキル発動、氷塊の槍! 風を、空気を凍らせ切り裂けっ!」
俺の右手をストリィの動きに合わせてその先、その先へと氷の塊を放出した。
移動する先を狙い撃ちする形だ。
「そうはいかん。我とて風を操る神なるぞ!」
ストリィは神を自称するだけの事はある。空中で鋭角に進行方向を変えながら俺の撃つ氷弾を次々と躱していく。
晴れた空に氷の槍が吸い込まれていった。
「当たらないな流石に」
「それならこのアラク姐さんが!」
「おお、頼む!」
アラク姐さんが自分の下腹部から放出する糸で空中に網を紡ぎ出す。
Sランクスキル捕縛撚糸にも通じる能力で文字通り相手を一網打尽にできる。
「おわっ!」
頭の上を網が覆い被さる状態になってストリィが急降下を始めた。
「そこなら届くにゃ!」
猫耳娘の姿に身体変化したカインがジャンプでストリィたちに飛びかかる。
猫族の獣人の跳躍力は人間のそれをはるかにしのぐ。
俺の身長よりもかなり高い所にいたストリィたちだが、カインの爪はそれに届く距離だ。
「ぐぬぅ!」
「ストリィ!」
ルッサールをかばうようにしてストリィがカインの爪を受ける。
切り裂かれた腕から風が吹き出す。恐らく出血に似た症状だろう。
「やりおったな小娘っ!」
ストリィがすぼめた手をカインに向けると、指向性の風が噴き出しカインに直撃する。
「きゃんっ!」
カインが空中でたたき落とされた。
俺は落下地点を予測してカインを抱きかかえる。
「ゼロ様……」
「大丈夫かカイン」
「うん、だいじょぷにゃ……」
カインはくるっと着地して四つん這いになると、猫のように空中にいるストリィたちをにらんで威嚇の声を漏らす。
「でもいい時間稼ぎをしてくれたよ!」
アラク姐さんの網がストリィたちの周囲に展開されていた。
「神と言ってもやれる事は一つなんだろうね。このアラク姐さんの網はもうあんたらを包み込んでいるからね!」
アラク姐さんの糸が広範囲に展開されていたが、ストリィたちを中心にして徐々に絞られていく。
「かような網、捕縛される前に風で切り裂き、引き裂き、八つ裂きにしてくれよう!」
ストリィは眼前に迫る白い網を風圧で押し戻そうとする。
だが一瞬の後に動きが止まり、ゆっくりと背後に首を巡らせた。
「なんと……」
「そうさね、網だけじゃなくてアラク姐さんの糸は自由自在! その網からも直接あんたらを捉える事ができるんだよ!」
アラク姐さんの網から細い糸が更に飛び出していて、ストリィの背中に貼り付いていた。
少しでも動きを止められた事で四方八方から糸がストリィたちに命中し、卵の殻に支えられる黄身のように包囲された網の中で宙に浮かんだ状態で固定される。
「さあゼロちゃんルシルちゃん、やっちゃいな!」
「ああ!」
「うん!」
アラク姐さんがストリィたちの位置を固定してくれている。
これが一番いい機会だ。
「SSSランクスキル発動! 円の聖櫃っ! 包み込め、魔力の障壁よ!」
「SSSランクスキル、地獄の骸爆!」
俺が円の聖櫃を展開する。円の聖櫃は魔力を通す完全物理防御の障壁。
俺の展開した円の聖櫃はストリィたちを包み込む。そこへルシルが地獄の骸爆を突っ込んだ。魔力で生成された炎そのものは防げないが、地獄の骸爆で爆発したアラク姐さんの糸とそれを燃やした炎は円の聖櫃の中に閉じ込められる。
「ぐぎゃぁぁ!」
円の聖櫃で球状に囲まれた中で炎が踊る。この状態になればアラク姐さんの網はもう関係ない。円の聖櫃の中で渦巻く炎が風の神であるストリィの力を削いでいく。
徐々に炎が沈静化すると、円の聖櫃の中も見えるようになってきた。
「か、かはっ……」
円の聖櫃の中はもはや燃える物が何もなくなっていたのだ。閉じ込められた中で全てを燃やし尽くして。