風水
俺は幼児くらいの大きさに小さくなったルッサールを見下ろしていた。
「水の神と言うだけあって火には弱いか」
「な、なんだよう! おまえあっち行けよう!」
ルッサールは女の子座りの状態で両手を振り回して抵抗する。
「ゼロ、私の爆炎で頭の中の大事な部分も燃えちゃったのかも……」
「中身と見た目の釣り合いが取れるようになっただけだろう。気にしない気にしない」
俺は少し戸惑っているようなルシルをなだめた。
頭を少しなでてやると落ち着くようだ。
「それじゃあこのチビ神、どうしてくれようか」
俺はバタバタと暴れるルッサールの両手を片手で簡単に捕まえてしまう。
「う~っ、放せぇ、手を放せ~」
「そっちこそ静かにしろよ。動くとかえって痛くなるぞ」
俺とルッサールのやりとりを見ているアラク姐さんが、なぜか腰をぐねぐねと回し始めた。
「うぅん、ゼロちゃんの幼女への虐待、見ていてそそるわぁ~」
「おいちょっとアラク姐さん! 変な言いがかりはやめてくれ!」
俺の慌てようにルシルもフォローを入れてくれる。
「そうよ、さっきの攻撃はあんたも見ていたでしょ!? 今のなりは小さいけど、凶悪な水使いなんだから!」
「でもこの絵面が、ねぇ。あなたもそう思うでしょ、カインちゃん」
「えっと、ボクは……」
「こらそこ、純真な少年の心を汚さないの!」
カインがアラク姐さんの毒牙にかかりそうな所をルシルがたしなめた。
アラク姐さんは色気のあるウインクをして肩をすぼめる。
「冗談よ冗談。何もそんな怖い顔しないで、ね?」
「ま、まあいいわ。それはおいといて……わっぷ!」
ホーツクの町を取り囲む壁。その門の前を強風が吹き荒れた。
「なんだこの風は!」
俺は空いている左手で目をかばう。
風はねっとりと肌にまとわりつくような感触だ。
そこに水風船が割れるような音がして、俺の右手が空を切った。
「つかんでいたはずのチビ神の手が……」
俺の右手はびしょびしょに濡れているだけで、ルッサールの腕はどこにもない。
「ゼロ、あっち!」
ルシルの指さす方向を見上げると、宙に浮いているルッサールの姿があった。
そしてその隣には下半身が竜巻のような渦をまとっている男もいて、二人とも空中に静止している。
「よくもルッサールをこのような姿に!」
風の音に紛れて男の声が聞こえた。
「我はストリィ、風の神であるっ! 神に楯突きし者共よ、己の不明を恥よっ!」
風の神を自称するストリィが叫べば叫ぶだけ風の勢いが強くなる。
「風、か」
「ゼロ、どうしよう……」
俺たちは少し高い所で浮いている風と水の神を見上げていた。
「そう言えば大分前に……どこかの工場で」
「あ、あれね! 流石ゼロ、やってみる価値はあると思うよ!」
以心伝心と言うのか俺とルシルの作戦会議は一瞬で終了し、俺たちは両手を浮いた神々に向ける。
「ほう、我らに対して臆さぬとは」
「水の奴を見れば判るだろう。自称神とやら相手に気後れなんかしていられないさ!」
俺はそう叫びながら両手に力を込めた。
「行くぞルシル!」
「任せて!」
俺たちの両手が淡い光を放ち始める。