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カミツキ

 俺はアラク姐さんに頼んでジャガードたちを縛ってもらい、ホーツクの町の門前に転がす。


「おい、そろそろ起きろ」


 俺の蹴りでジャガードは意識を取り戻した。


「ぐ、ぐぬぬ……」

「それで冒険者諸君。他にも抵抗してくるような奴はいるかな?」


 極力落ち着いた声で聴いてみる。だが俺の爪先はジャガードの脇腹をつついていて、ジャガードはその度に小さなうめき声を上げた。


「お、俺たちがホーツクで一番強いんだ。他には……いない。だがホーツクはよそ者には屈しないぞ!」

「うーん、よそ者と言っても一応俺の版図なんだがなあ」

「それは地上にいた頃の話だ! 今まで俺たちを放ったらかしにしておいて何を今更っ!」

「そう言われるとどう答えたらいいのか判らないが、町ごと大地が宙に浮くなんて考えてもみなかったものでな」

「う、うう。でも俺たちは大変……だったんだぞ……」


 ジャガードは苦しそうに膝を抱えて丸くなる。


「う、うがぁああぁ!」

「どうした!」


 ジャガードの身体から淡い光が現れた。


「なんだと……」


 ジャガードが縛られた状態で少しだけ宙に浮く。

 視線は力なく虚空を見つめる。


「おい、しっかりしろ!」


 俺は宙に浮いているジャガードを捕まえて揺さぶった。


「……王か」


 先程のジャガードの声とは違う、低く深い声。


「お前、この冒険者じゃないな」

「ほう……。我に気付いてなお驚きはせぬか」

「中身が入れ替わるなんていうのはもう慣れっこなんでな」

「くっくっく……」


 縛られたままだがジャガードの身体は立った姿で宙に浮く。

 うつろな瞳が俺の方に向いている。


「この町の者共は我が依り代。この世界を手にするための足がかりよ」

「またか。どうも思念体とか精神体っていうのは他人の身体を使って何かをしようとするな」

「ふふふ、そう思うか? よかろう……」


 ジャガードの身体が跳ね上がり大きく口を開けた。


「おげろろろろ!」


 意味不明な叫び声と共にジャガードの口から白い液体のような塊が飛び出してくる。


「うわっ、汚っ!」


 俺は思わずバックステップでこれを躱す。

 ジャガードから吐き出された液体はブヨブヨとうごめいて集まってきた。


「これが我が姿よ」


 白いブヨブヨはまとまって人の形を作る。

 手足が生え服のような物で覆われていく。それは若い女のような身体付きになっていった。


「我はルッサール、水の神であるぞ」


 既に白い液体の塊ではなく、ケープをまとった見目麗しい女性の姿でそう言い放つ。


「ルッサール……神だと」


 顕現けんげんした神を自称するその女を見て、俺はおうむ返しに言ってしまった。


「王よ、この町は我の支配を受けておる。そなたには渡さんぞ」


 ルッサールが右手を払うと鞭のようにしなった水の塊が放たれる。


「Rランクスキル発動、魔法障壁マジックシールド。その水の塊を弾き返せ!」


 俺が魔法障壁マジックシールドを展開して水の鞭を打ち払う。


「ほう、面白い芸をするな、王よ」

「それはお互い様かもしれないぞ。スキル発動する様子もなかったからな、神よ」


 俺たちは互いににらみ合いながらも口の端で笑っていた。

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