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空を飛びながら平常運転の生活を続けると

 ウィブが草の生えた空き地へと降りる。

 畑の作物を荒らさないよう、離れた場所へ降りるようにしたのだ。


「それにしても大地が……浮いているとはな」

「降りた感じ、普通の地面と変わらないのう」


 ウィブは多少強めに地面を踏みならし、その感触を確かめていた。

 特にそれで地面が揺れるような様子もない。


「わっ、うわ……」


 畑仕事をしていた人がわめいていた。

 急にワイバーンが近くに降りてきたのだ、さぞ驚いた事だろう。


「ああ済まん」


 俺はウィブの背から降りて謝る。


「は、うん、大丈夫」


 畑仕事をしていたのは一人の少女だった。

 目鼻立ちは整っているが平凡の域を出ない、ごく普通の少女だ。

 農作業用の服は土で汚れているが、こぎれいにしている所は好感が持てる。


「シーナ!」


 畑の奥からもう一人、今度は少年が木の棒を持って飛び出してきた。


「大丈夫だよサッくん」


 少年は少女をかばうようにして俺たちの前に立ちはだかる。


「あ、あんたたちは……それのそのドラゴン……」


 サッくんと呼ばれた少年は震える脚を無理矢理踏ん張ってこらえているようだ。

 その後ろにいた少女も、持っていた鎌を握りしめていた。


「待て待て、危害を加えるつもりはない。君たちはここに住んでいるのか? 少し話を聞かせて欲しい」


 俺は両手を広げて敵意のない事を示そうとする。


「ゼロ、国王なんだからそんな下手に出なくても、普通に聴いたらいいんじゃないの? どうせドラゴンとワイバーンの違いも判らないような田舎の子供たちなんだからさ」

「そう言うなよ、俺は彼らと話をしたいのであって権力や権勢を振りかざそうとしている訳ではないのだから」

「そうだけどさ、なんか見ていてまどろっこしいって言うか」


 俺たちの会話を聴いて少年たちが怯えながらも質問をしてきた。


「あ、あんた……いや、あなた様は王様、なんですか?」

「ああ、だがそれは気にしないでくれ。俺はゼロ、勇者の延長で国王をやっている」

「ご、ご丁寧に、あ、ありがとうございます。僕はサトシ、こいつはシーナ。ホーツクの町に住む職人ギルドの見習いです」

「職人ギルド? それがどうして畑仕事を」

「あ、えっと。他の町との行き来ができなくなっちゃって、今食べる物を皆が育てているんです。商人ギルドとか冒険者ギルドの連中も畑で作物を作ったりしているんですよ」


 ホーツクの町が孤立しているという事は判った。


「ふぅむ。ホーツクの町にはそれなりの人数がまだ生活していそうだな」

「みたいだね。確かにこんな状況じゃあ他の町との連絡も取れないでしょうから」

「なんせ空に浮いているんだからな」


 俺の言葉を聞いて、サトシは落胆した表情を見せる。


「やっぱり、僕たち地上にいないんですね……」

「ああ。俺たちもウィブ、このワイバーンに乗ってようやくここまで辿り着いたんだ。不思議な事にこの辺りの土地は、丸ごと宙に浮いているんだよ」


 少年は唇を噛んで自分の気持ちを抑えようとしていた。


「サッくん……」


 そんなサトシの姿を見て少女、シーナがサトシの腕に手を添える。

 サトシはシーナの手に自分の手を重ねた。


「僕たち、ずっとこの限られた土地で暮らしていくのかと思っていたから。途切れた大地の向こうは空しかない世界で」


 サトシは気丈に自分の状況を説明してくれる。


「確かにここからだと下を見ても地上は見えないな。周りに空しかないと思うのも無理はないか。俺だって君たちの立場だったら同じように今の状況に適用しただろうな」

「でも……」


 サトシの後ろに隠れていたシーナがサトシの肩越しに俺たちを見ていた。


「外の世界から人が来てくれた。外の世界はまだあるって事よね!」


 少しだけ、ほんの少しだけだったがシーナの顔に笑みが浮かんだ。

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