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浮き島

 上から大きな音が聞こえたような、そんな感覚。実際に聞こえたのかも判らない。


「え……? 何だ……」

「ゼロっ!」

「ゼロちゃん!」


 アラク姐さんの下っ腹から勢いよく糸が飛び出し俺の身体に巻き付く。

 俺の身体が宙に浮く感じがした。


「はぁ、はぁ……お、おお……」


 俺は荒い息をしながら糸をたぐって登っていく。


「またやっちまったな。ああいう所は空気が淀んで息できない事があるんだったっけ」


 どうにか呼吸を整えながら俺は宙に浮いていた。

 ウィブに乗ったアラク姐さんの糸で吊されている状態だ。


「空気が薄くなっていたの?」


 ルシルが心配そうな顔で俺を引き上げてくれる。


「よくは判らないが息が苦しかった。ピカトリスだったらこういう事に説明ができるんだろうけどな」

「でも意識があってよかった」


 ルシルは俺にしがみついて、本当に安心したような様子だった。


「済まないな、心配をかけ……お。おお……」


 俺はまた言葉を詰まらせてしまう。

 ルシルに抱きつかれて上を見た俺の視線に巨大な影が飛び込んで来た。


「えっ、ああっ!」


 ルシルも、カインとアラク姐さんも同じように上空を見上げる。


「し……島!?」


 そこには大きな土の塊が空に浮かんでいた。


「土の……縞模様……」


 俺はこの縞模様を知っている。今見たすり鉢状の削られた地面、その壁にあった模様だ。

 土や石が何層にも重なってできた縞。


「ウィブ!」

「やはりかのう」

「ああ、この土の塊の高さまで上昇できるか?」

「結構高いからのう。まあやってみるとするかのう」


 愚痴をこぼしつつもウィブは上昇を始めた。


「頼むぞ」

「承知!」


 勢いを付けて加速する。浮いている土の塊に近付けば近付く程それがどれだけ大きな物体なのかが判ってくるのだ。


「えぐられた大地と同じくらいの大きさ、という事か」

「ねえゼロちゃん」


 アラク姐さんが俺たちの思っている事を口に出してくれる。

 それによって互いの認識を改めて確認する事ができるから、こういう所で言語化してくれるアラク姐さんには助かっているが、だが今はその事実を認める事が恐ろしい。


「あれって、削られた地面がそのまま浮かんでいる、って事じゃないのかしら」

「俺もそれを考えていた。そうであって欲しくないとは思っていたが、やはりそう見えるのか」

「そ、そうね。と言うよりそれくらいしか思いつかないんだけどね」


 それがどれだけ現実離れした事でも、今実際にある事を冷静に受け止めなくてはならない。

 ウィブの上昇に合わせて空の浮き島が段々と近付いてくる。


「勇者よ、この塊の表面に沿って登っていくからのう」

「頼む」


 卵のように丸い形で浮いている巨大な土の塊。

 底から沿うようにしてウィブは塊の脇を飛んで行く。


「ゼロ、下を見て」


 俺はルシルに促されてウィブの脇から地面を見る。


「ああ、丁度同じ形だな、削られた地面のくぼみと宙に浮いている土の塊が……」

「うん」


 ルシルの想像と俺の考えは一致していた。

 カインもアラク姐さんも同じように考えているだろう。


「そうだとすると、もしかしたらホーツクの町はこの上に……」

「そうかも知れないな。ウィブ、ルシルが言うようにこの上にホーツクの町があるかもしれない。もう少し速く飛べるか?」

「承知した。それでは勇者よ、いや国王よ」

「ああ。SSランクスキル騎士の契約者(ナイトコントラクター)をウィブに!」

「おおおーっ!」


 ウィブに力がみなぎってきたように見えた。

 それと同時に速度が上がり、俺たちは鞍に押しつけられる。


「は……速い……」

「お褒めにあずかり光栄だのう、勇者よ」


 しゃべりながらもウィブの空を飛ぶ速さは落ちない。


「一気にこのまま駆け上ってしまえっ!」


 俺も一緒に気合いを入れてウィブを応援する。


「おおおっ!」


 ウィブは叫びながら大きく翼をはためかせた。

 何層も雲を抜け浮き島の縁を跳び越える。

 影に入っていた俺たちはその影から抜けた。


「まぶしっ……お、ああ!」

「ゼロ見てっ」

「ああ。町が、ホーツクの町がある」


 浮き島はホーツクの町を中心にその周りが断崖絶壁になっているような状態になっている。


「ホーツクの町は……無事なのか」

「行ってみようよゼロ!」

「おう! よしウィブ、頼んだぞ!」

「任せてくれるかのう」


 ウィブは俺たちを乗せてホーツクの町へと向かう。


「凄いぞ、町が……町がそのままの姿で残っている」


 俺が確認したのは日常と変わらないホーツクの建物。


「これだけの事が起きていながら、壁が崩れたり屋根が潰れたりなんてしていない……。もしかしたら町の人たちも気付いていないのではないか……」

「そんなあ、流石にゼロの考えすぎだよ。大地も揺れただろうしこんなに上空にいるんですもの。気付かない訳が……」


 町の周りにある畑、そこに野菜を栽培している人がいて俺たちを見ていた。

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