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天空界の熱波

 俺の親父が生きている。

 その情報に喜びはなかった。確かに悪い話だ。


「ピカトリス」

「なあにゼロ君」

「お前は親父と一緒に旅をしていたんだよな」

「そうよ」

「その頃の話を聴かせてくれないか」

「そんな事聴いてどうするの?」


 俺は自分の顎に手を当てて思考の海を潜る。


「俺は親父とまともに話をした事がないんだ。いつも旅に出ていたし小さい頃はそれこそどっかのおっさん程度にしか思っていなかったからな。だから親父は勇者として旅をしていた時にどういう奴だったのかなって思ってさ」

「そうねえ、不真面目で女ったらし、人の家へ勝手に乗り込んでいったと思ったら戸棚の中をまさぐったり壺を叩き割ったり、もうやりたい放題だったわよ」


 あっけらかんとピカレスクはその時の状況を楽しそうに話した。


「そこはゼロと一緒かもね」

「ルシル、余計な事は言わない。だいたい俺のどこが親父と同じなんだっての」

「そうねえ、偉そうな所とか傍若無人なところとか。勇者っぽいわよね、良くも悪くも」

「悪いところはいらないっての」


 ルシルは小さく舌を出して肩をすぼめる。


「それでピカトリス、親父の情報というのは」

「それなんだけどね、あたしも噂で聞いただけなのよ。なんでも雲に乗って雷と共に現れたとか、風と共に去って行ったとか」

「え? それがどうして俺の親父なんだよ」

「どうやらそうやって現れた時に高笑いをするんだって。そうしたらどこからともなく、いい加減やめてくれよ勇者オウル~って声も聞こえるんですって」

「オウルは俺の親父の名前。そして役割としても勇者で間違いない。勇者オウル、それだけ聞くと確かに親父なんだが……雲? いったいどういう……」

「呼んだかいゼロちゃん」


 不意に天井から声がする。


「おわっ、アラク姐さん!」


 天井から糸を垂らしてぶら下がっているアラク姐さんがいた。


「い、いつから……」

「そりゃあゼロちゃんがそこのルシルちゃんとあんな事やこんな事をやっている時からさあ」


 アラク姐さんは喉の奥でクスクスと笑う。

 気が付かなかったとは俺も不覚を取ったものだ。


「でもさあ、雲の上とか風に乗ってとか、どうやらそれは天空界の話のようにも聞こえるわよ」

「天空界?」

「そ。歩ける雲の上にある世界。はるか上空にある幻の国よ」

「歩ける雲? 天空の国だって? 嘘言っているんじゃないだろうな」


 俺が噛みつくからアラク姐さんの顔が少し赤みを帯びてくる。

 人間のような外見をしているアラク姐さんだが、その正体は蜘蛛の魔獣が人間の身体に化けているものだ。それが怒ったような表情もできるのだからたいしたものだと思う。


「魔獣の中には人語を理解できて空を飛べる連中、ペガサスやグリフォンといった者たちがいるのよ。まあ、人間と会話ができるか、喋れるかっていうところだと難しいから、魔獣同士で意識をやりとりして情報を受け渡しするんだけどね」

「ほう」

「今年、あもう年が変わったから去年ね。夏頃から上空で騒ぎが起きているって話で持ちきりだったのよ。中には行方不明になる魔獣もいたらしいってさ」

「去年の夏頃からか。ピカトリス、その時に何か異常はあったか?」


 俺から話題を振られてピカトリスが宙に視線を送る。


「そうねえ、夏頃と言えば長期間の猛暑があったわよね。ここ数百年は起きないだろうって言われたくらいの熱波が凄かったわよね」

「暑さ寒さは無効化するスキルを持っているんでな、俺に同意を求められても困るが」


 俺に代わってルシルが去年の暑さを思い出そうとしてくれていた。


「確かに去年は夏の暑さが異常だったわよね」

「そうなのか?」

「鈍感症のゼロには判らないでしょうけどね~」

「なっ!?」


 こんな時に小言をぶつけてこなくてもよさそうなものなのに。

 ルシルはいたずらっ子のような意地悪な笑い顔を作っていた。


「まー、ともかくだ。新年の挨拶はこれくらいにして俺はそのホーツクの町があった場所に行こうと思う。何か手がかりがつかめるかもしれない。それにそこで空の様子を見る事ができたらいいのだが」

「上空に行くとなると人数も限られてくるよね」


 そんなルシルでも俺の思考をフォローしてくれる。


「確かにルシルの言う通りだ。そもそもが上空へ行ける奴を確保しなくてはならないとすれば……」

「いいってさ、ゼロ」

「何がだ?」

「ウィブがね、一緒に行ってくれるって。今聴いてみた」


 ルシルが思念伝達テレパスを使ってワイバーンのウィブに連絡を取ってくれたようだ。


「そ、そう言う事なら頼むとしよう。ウィブに乗っていくとなると誰に同行してもらおうか」


 いつの間にかソファーにではなく俺の膝の上で丸くなっているカインをなでながら、カインのもふもふな毛並みを堪能していた俺は、周りの仲間たちを見渡してこの旅に連れて行く仲間を考えていた。

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