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父親の影

 ピカトリスはゆっくりと執務室へ入ってくる。

 俺の座っているソファーへと歩みを進めると、周りにいた連中は黙ってその道を空けた。


「ゼロ君、年明けすぐにあれだけど悪い話ともっと悪い話、どっちから聴きたい?」

「どっちも悪い話かよ。だったら判りやすい方から言ってくれ」

「そうね……一つ目は北の町、ホーツクが消えたわ」

「消えた? 壊滅とかそう言う事ではなくて、か」


 ピカトリスがうなずく。


「そう、跡形もなくね。町があった所は巨大なクレーターになっていて何か大きな爆発でもあったみたいなの。でも近くの町ではそんな大爆発なんて観測していないのよ」

「町が一つ吹き飛んだという訳か。でも爆発ではない」

「そうね、まるで何もなくなった、そのまま丸ごと削られてしまった、みたいな感じかしら。そこは実際に見てきてくれたアガテーちゃんにお願いするわ」


 アガテーがピカトリスに促されて補足を入れる。


「ピカトリスさんの情報を受けて見に行ったのですが、いったい何が何やら、本当に何もなかったんです。爆発や隕石落下だったらクレーターの縁は盛り上がっていたり、周りに焼けた跡があったり、中心地にその痕跡が残っていたりするものなのですが」

「切り取られたように何もなかったのよね」


 ピカトリスの指摘にアガテーが真剣な表情でうなずく。


「確かにそれは異常だ。それがホーツクの町を狙っての事だったのか、それともただ単にその場所だったのか……。引き続き調査が必要だな。……ではもう一つの悪い話と言うのは」

「それはね、ゼロ君……君のお父さんの事なの」

「親父?」


 ピカトリスは目を伏せて黙ってしまう。


「親父がどうしたってんだピカトリス」


 俺の親父は俺と同じ勇者で旅をしていた。一年に一度家に帰ればいい方であまり俺の記憶にはないのだが。

 今更出てきた親父の情報。俺の胸の奥がざわつく。


「ゼロ君のお父さんはあたしの古い冒険者仲間だった事、言ったわよね」

「ああ。アリアを、ルシルの器となった少女を俺の家に連れてきたのが親父とお前だったな」

「そうね、あれからもう十三年になるのね」

「俺が六歳だったときだったか。あれから数年して母さんも流行病で死んだからな。名前も知らない年の離れた兄がいたらしいが、俺は会った事もないからな。母さんが死んでからはほとんどアリアと二人で長い事暮らしていた訳だが」


 たまに帰ってくる親父の持ってくる戦利品なんて物は子供の俺にとっては価値の判らないガラクタも同然。町に行って売ろうにも安く買いたたかれてしまって生活の足しにはならない。

 だから俺は妹として共に暮らしたアリアのため、王国の衛兵に志願したのだ。

 今考えると、王となり大陸をまとめる立場にあるなんてあの頃の俺には思いもよらなかった。


「今更その親父が何だというのだ」

「それなんだけど、ゼロ君のお父さん、オウルが生きているっていう噂を耳にしたのよ」

「勇者として世界を歩き回っているのなら今までどこかで情報があってもよさそうなものだったのに、それが無いから俺はどこかで親父は野垂れ死んでいるのかと思っていたよ……」

「ゼロ……」


 ルシルが俺の腕にそっと手を添える。


「あんのクソ親父、次に会ったらボッコボコに殴ってやらないと気が済まん! どんだけ苦労したと思ってんだ!」


 俺は握りこぶしに力を込めた。それこそ手の平から血がにじんでしまうくらいに。

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