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新しい年の幕開け

 レイヌール勇王国、王国暦三年が終わる。

 西の大陸との戦いが終わってからもう三年の月日が流れようとしていた。


「外は雪だな」


 俺は執務室で年を越そうと思い、ルシルと共に世界中から集まってくる陳情の書類に目を通す。

 俺たちは東のレイヌール大陸へ戻り軍備の強化を進めた。

 併せて西のトライアンフ大陸との交易、再軍備を俺の主導で進めている。

 連絡は主にベルゼルとブラックドラゴンの姿になった凱王が行き来して、俺を補佐してくれていた。


「星見の予言、とうとうその年になったか……」


 あの戦いの後俺は正式にレイヌール勇王国を建国し王国暦元年と定める。それから三年後、星見の予言では世界が崩壊すると言われていた年、王国暦四年に入るのだ。


「そうだね、星見の予言が当たるなら、ね」

「だがそれ以上の情報が入ってこない……それだけにどう対処すればいいか判らないな」

「ゼロ、今までやってきた事を信じようよ」

「アガテーたちには索敵を続けてもらっているが、その神とやらがどこから現れるか、そもそもどうやって攻めてくるのかがまったく判らない状態だからな。待ち受けるとしてもどこまでやれば足りるのか……」

「大丈夫だよ、国内の生産力も上がって人口も増えている。人間だけじゃなく魔族も巨人族もノームだって、みんな協力してくれているんだもん」

「ああ」


 トライアンフ王国として再出発を始めたトリンプたちは大陸内の国々を再編成、奴隷制も撤廃されて新しい国作りを行っている。

 開墾する土地には困らないのだ、奴隷だった者たちも新たな土地を得てかなり大きな町を作っているらしい。


「東西の交流も盛んになって、戦のない日常が生活を豊かにしてくれているんだよ」

「そうだな。世界の危機に備えて地下洞窟を避難場所にする者たちも出ているらしいし、民の防災意識もかなり高くなっているようだから、何かの時には俺がいなくとも自分たちの身を守れるようにしてくれるはずだ」

「ええ、避難訓練はしっかりやっているからね」

「平和に溺れず、たいしたものだ。俺は誇りに思うよ」


 俺は執務室の来客用ソファーに座る。三人掛けのソファーだ、ルシルがすかさず俺の隣に座った。


「ねえゼロ、私の事は?」

「どうした急に」

「誇りに……思ってる?」


 俺の肩により掛かるようにしてささやく。


「命を懸けて戦っていた事が嘘のようだな」

「そうね。私が魔王をやっていた頃にはこんな日が来るなんて思っていなかったわ」

「俺だってそうだ。勇者になる事だってムサボール王国の衛兵だった頃には予想もしていなかったさ」


 遠い過去の記憶に思いを馳せる。


「俺が魔王討伐に向かって二年、その後お前と戦ってから三年放浪して王国に戻ってみれば突然の解雇通告」

「あの屑王っぷりったらなかったよ。あの時は大変だったね」

「大変という事では今もかなり大変だがな、その大変さとは物が違う感じだろうな」

「うん」


 それからは逃亡と戦闘の連続で、気が付けば俺の国ができ東西の大陸を掌握するまでになった。


「はぁ……」


 ルシルが口の前に手を当てて息を吐き出すと水蒸気となって白くなる。


「寒いか?」


 俺は温度変化無効のスキルがあるから寒さは感じない。寒さによるダメージも受けない身体だ。


「ううん、大丈夫」


 ルシルは俺に寄り添って目を閉じる。

 俺は身にまとっていた外套をルシルに掛けた。


「ありがとう……あ、鐘」


 教会の鐘が新しい年になった事を町に知らせる。


「新年おめでとうございますにゃ!」

「おめでとうございます、ゼロさん」


 カインとシルヴィアが勢いよく扉を開けて入ってきた。

 待ち構えていたかのように、シルヴィアたちが新年用のドレスを着て俺の居室へ挨拶をしに来たのだ。


「流石はシルヴィア、珍しい装飾品と……そのドレスの生地も遠い異国の物だろう」

「お判りになりますか、うふふ……」

「ゼロ様、ボクもだにゃ~!」


 猫耳娘の姿でカインが飛びかかってくる。


「カインも似合っているぞ、おめでとう」

「にゃ~」


 俺が頭をなでてやると、カインは目を細めてなすがままになった。

 俺は国王としての仕事を果たしつつ、それまでのように仲間たちとは普段通りの付き合いを続けている。


「おや、これは先を越されたようだな。勇者ゼロ、新年めでたいな」

「セシリアか。おめでとう」


 セシリアはモンデール伯の娘だが自分を軽くみられないように男装をして振る舞っている。

 今はセシリアを軽んじる者などいないのだがその頃の癖が抜けていないのだろう。


「今年は勝負の年になりそうだな。去年は何も決まらなかったからな。なあ婿殿?」


 セシリアは座っている俺の膝に自分の膝を割り込ませてにじり寄る。

 こういう時だけはセシリアは俺の事を婿殿と呼ぶのだ。


「ああ、星見の予言の年だからな」

「まあそれもあるが、他にも決めなくてはならない事があるだろう? なあ」


 セシリアが俺の頬に手を当てる。


「意味深だにゃあ」


 カインが傍観者を決め込んで茶々を入れた。


「まったくよね」


 柔らかい口調ながらもドスの利いた低い声。


「久し振りねゼロ君」

「年明け早々お前が来るとはな。それにアガテーもか」


 執務室の入り口にはピカトリスとアガテーも立っていた。

 一瞬でこの場の空気が引き締まった物になる。

 これは冬の寒さのせいではなかった。

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