明日へのトビラ
俺たちは全員百八階層ある塔から地上へと降りる。ブラックドラゴンの背に乗って。
「戦闘は終結したがまだ指示が行き渡っていない所は小競り合いが続いているのだろうか」
空を滑空しながら俺が気を揉んで周りに尋ねると、いち早くトリンプが答える。
「全軍引き上げるよう伝えてはいる。凱王、傘下の国々も兵を引き上げているだろうな?」
「はっ、既に全軍撤退を行っております陛下」
ブラックドラゴンの身体に取り憑いている凱王は器用に言葉だけで返事をした。
「だいぶその身体にも慣れてきたみたいだな」
「勇者くん、ぼくだっていろいろな人形に思念体を移してきたんだからねえ、これくらいはできて同然だよねえ」
「そうかそうか。まだウィブやアラク姐さんにはお前の姿がトラウマになっているみたいだからな、あまり脅かすような真似はするなよ」
「まあ気をつけるからねえ」
凱王はドラゴンの口で大笑いをする。
アラク姐さんも凱王の背に乗っているが、その笑い声を聞いて俺の背中にしがみついてしまった。
「言ったそばからやるんじゃない!」
俺は力一杯ドラゴンの背中を蹴飛ばす。
凱王は痛がって身体をくねらせるが、トリンプも乗っているから俺たちを振り落とさないように我慢しているようだった。
「街は平和というわけでもないが、混乱は収まったようだな」
俺は凱王の動きが落ち着く頃を見計らって地上の様子を確認する。
「ゼロ、思念伝達を使って集まれる人たちには声をかけたから」
「あの広場に集まっているのがそうか?」
「うん」
ルシルが呼びかけてくれたお陰でシルヴィアたちが凱国の街に集まってくれていた。
「ゼロさん!」
「ゼロ様!」
シルヴィアとカイン、そしてこの大陸に来ていた仲間たちが集まっている。
「ウィブさんが連れてきてくれたりしたんですよ」
シルヴィアは隣にたたずむワイバーンの首をなでた。
俺から見ればウィブはあからさまにブラックドラゴンの凱王を恐れている様子だが、凱王が下手なちょっかいを出さないようにきつく言葉と拳で伝えておいたから大丈夫だ。
「よっと」
凱王が低空飛行を始めた辺りで俺が背中から飛び降りた。
俺が着地すると凱王もそれに続いて広場へ降りて翼を畳んだ。
「ゼロさん!」
シルヴィアが俺に抱きついてきて、カインも俺に飛びついた。
その後ろでセシリアたちが見守っている。
「みんな無事でよかった」
「はい、どうにか逃げられましたので……」
「大変だったのにゃ」
「そうかそうか。苦労をかけたな」
「いえ……」
シルヴィアたちは涙ぐみながらも俺に逃亡とそれに続く放浪の話をしてくれた。
「でもこうしてゼロさんと再会できて、私もカインも……よかった……です」
「よかったにゃぁ」
「ああ、無事でいてくれてありがとう」
「ゼロさん!」
「ゼロ様~!」
俺は二人の頭をなでながら、目に涙を溜めて微笑んでいる仲間たちを見回す。
「凱国も、トライアンフ第八帝国ももう俺たちの所へ攻め入る事はない。だから俺たちは国に帰ってひとまず落ち着こうか、な?」
俺の言葉にみんながうなずく。
「トリンプ、西の大陸はお前に任せても構わないな?」
「よいとも。朕が全責任を負って大陸をまとめるとしよう。だが……」
「どうした」
今まで堂々とした態度のトリンプが急にもじもじと落ち着かない様子を見せ始めた。
「あの……定期的に交流を、いやそうではなくてだな、首脳会談を開く必要があると思うのだがどうだろうか」
「それはもちろん、進捗確認と現状把握は大事だからな。思念伝達だけではなく連絡は密に取る方がいいだろう」
俺がそう答えるとトリンプの顔色が明るくなる。
「さもあろう、聴いたか凱王よ!」
「はっ、その折はこの凱王がお運び致しますぞ陛下」
「うむ! よきに計らえ!」
晴れやかな笑みを浮かべてトリンプが背筋を伸ばす。
「そうとなればまずは初の首脳会談を執り行おうぞ! 凱王、他の者たちにも触れを出せ!」
「ははーっ!」
凱王は大きな翼を広げると唸り声を上げた。
「やめろっての!」
俺は思いっきり凱王の頭を殴る。
「も、申し訳ないねえ……」
怒られてしまった凱王がその大きな身体を縮めて小さくなった。
「判ればいい」
そして群衆の笑い声の中、首脳会談と称した宴が始まる。
【後書きコーナー】
これで第三部終了、次話からは第四部がスタートします。
次は話に上がっていた神との駆け引き。終わりについての流れはできていますので、最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
でも細かいディティールはこれからですので、今なら気になるあの子をお知らせ下さい。
出番が増えるかもしれませんよ!?
第四部、神々の戯れ編。どうぞご期待下さい。