石華病とアボラ川
俺たちはギルドと警備隊の取り調べを受け、結果として町のチンピラ集団、チームラングレンを壊滅させた事が確認された。
「そもそもなぜ警備隊があんな奴らをのさばらせていたのだ?」
「己の町の治安を守れぬとは恥ずかしい限りだが」
俺の質問に商人ギルドの副ギルド長、セシリア・モンデールが答えてくれた。
「今ガレイでは謎の奇病が問題になっていてな。それの調査や応対に手数を取られていて、警備まで手を割けなかったのだよ」
「奇病?」
「ああ。俺たちは石華病と呼んでいてな、指先など末端から症状が出るのだ。だんだんと力が入れられなくなり石のようになる。最後には手を開いたまま固まってしまい、それが花のように見えるところから石華病と」
「ボクも試食の時とかに、手が思うように動かない人を見たけど、それって……」
カインには思い当たる節がある。初めに試食をしてくれた老人がそうだった。他にはお釣りの小銭を取り落す人もいた。
「原因は特定できているのか?」
「それがまだ。ただ、町に流れるアボラ川に何か糸口があるのではと見ているのだ」
「アボラ川というと……ムサボール王国が上流にあったよな」
俺は何か嫌な予感がして確認する。
「ああその通りだ。ムサボール王国の国境近くの山々から湧き出す水が源流と言われている。このところ急にアボラ川の水質が悪くなってな、それからなのだよ、石華病の症状が出始めたのは」
「時期的に合う、そして無差別で広範囲に影響が出ている……可能性は高そうだな」
「それに近頃の噂ではムサボール王国が外征を進めているとかで、魔王が消えた今、その空白地帯を我がものにしようという魂胆らしい」
諦めたかのような力のない表情。やはり独立都市と国家では軍事レベルも違う。力で押さえられれば抵抗も難しい。
「あの国はそこまで愚かだったとは。国内の平穏と国力を増強させる事に専念すればいいものを、外征を目論むとはな。利益を国外に求めるか」
「残念ながら俺たちにはそれを止める術はないのだ。それはともかく、これを見てくれ」
セシリアが一枚の紙を出す。
「警備隊と漁業ギルドからの依頼書だ。冒険者に配ったり冒険者ギルドで掲示している物と同じやつを持ってきた」
俺は受け取って内容を見る。
「謎の奇病、石華病の治療法確立、石華病の原因究明と対策。成果に応じて報酬を与えるものなり、か」
俺は仲間たちを見て、その顔に緊張感が漂っている事を認めた。
「シルヴィア、カインと一緒にここで商売を続けてもらえるだろうか。今日の売れ具合を見るとあと数日もすれば商品がなくなりそうだが、そうしたら本拠地に戻ってドッシュたちとまた商品作りをしてもらいたい。それとセシリア」
セシリアは急に呼ばれたからか一瞬びっくりしたようだが、右手で襟を直しながら咳払いを一つする。
「なんだ、勇者ゼロ」
「まだ本調子ではないことは判っているが、シルヴィアたちの護衛を頼めるだろうか。できれば信用のおける人に頼みたい」
「ししし、信用ってだな、うむ。そうか、それなら警備隊の中から精鋭を募って護衛させよう」
大丈夫だろうか、警備隊の連中はシルヴィアを見る目が恋するそれになっていたりする。
「では町にいる間の護衛と、本拠地までの道中の安全を守ってくれる者は……」
「はいはいはい!」
「俺がやります!」
「いやそれがしが適任かと!」
ほらな。男どもが一斉に名乗りを上げてくる。
美人でやり手、女商人シルヴィアの人気を改めて感じた瞬間だった。