不可思議な存在
より高位の存在。
「神……だと」
俺の声は老人のようにかすれてしまう。それ程に緊張で喉が渇いてしまったのだ。
喉がひりつき、舌が上顎に貼り付いてしまうかのように。
「そうだ」
そんな俺の様子を見ながらもトリンプは事も無げにうなずく。それが自然な動作であるだけに俺は不気味な恐怖を感じた。
ルシルは俺の腕にそっと触れる。そのぬくもりが俺に落ち着きを取り戻させるきっかけになった。
「神、ね。その存在は薄々気付いていたけど……実在するとは思わなかったわ」
ルシルは俺を安心させるつもりなのか、落ち着いた様子で話し始める。
「ほう、魔王であればこその感覚というのか、ルシル殿よ」
「なんとなくよ。世の中に溢れる不思議な力、それを説明するには今の私たちでは知識も能力も、そして実力も経験も足りなさすぎるわ」
「そこから神の存在を感じた、と?」
トリンプの言葉にルシルが目を伏せた。
「そうね……そうとも言える。でも確証はなかったわ。私の、そして私の複製人間の身体。ゼロ、ピカトリスが言っていたよね」
「ああ、人造人間は錬金術師が造り出す人工生命体。あの腐れ錬金術師のピカトリスでさえ、完全な人造人間を造り出す事はできなかった。だが俺が小さい頃、親父が連れてきたアリア……ルシルの身体から造られた複製人間で俺の妹として共に育ったこのルシルの身体は……人が辿り着く能力では説明ができない」
「神の為せる業だとすれば……」
俺は親父が連れてきたアリアという存在が心の中で重くのしかかる。
アリアは魔王だった頃のルシルの身体を素体とした複製人間。俺が魔王を討伐した時にその魂、魔王ルシル・ファー・エルフェウスの魂がアリアの身体に乗り移り、今はそこに収まっている状態だ。
「私だってゼロに討たれた時はもうおしまいだと思ったわ。でもそうはならなかった。私の肉体が滅び魂だけの存在になったのに、その先でアリアの身体があったの」
ルシルは自分の胸に手を当てて、血を吐くように言葉を紡ぎ出す。
「まるでこの事を予見していたかのように。私の魂をこの身体が受け入れるために存在していたとでも言うかのように」
俺は苦しそうに胸を押さえるルシルの肩に腕を回して、今度は俺がルシルを安心させようとした。
「確かに説明が付かないし、俺たちの誰もができない事が起きたんだ。俺はただ単に俺の知らない能力があって、それが複製人間の身体を連れてきたのだと思っていた、いや」
俺は深く息を吸う。
「そう思いたかったんだ……」
静まりかえった部屋の中、俺の吐く息の音がやけにうるさく聞こえた。
「そう、そこに行き着いちゃったのね」
玉座の後ろから聞こえる声。
「なっ……お前は!」
俺たちは一斉に玉座の方へと視線を送った。