一瞬の隙と本当の狙い
ブラックドラゴンのブレスはそれをしのぐ勢いで円錐状の物を投射すれば拡散させる事ができる。
「そのためには威力と速度、そして酸に耐えうる材質!」
俺は覚醒剣グラディエイトを前に突き出し魔力をその先端に集中させた。
「魔力を帯びた剣であれば酸が直接触れる事はない! そしてSランクスキル超加速走駆ォ! 俺がその勢いを加速させる!」
剣の先端で酸のドラゴンブレスが切り裂かれるように飛沫となって消える。
ブラックドラゴンはそれでもブレスを止めず、更に圧力を高めてきた。
「一点集中、正面突破ァ!」
俺は全力で剣を突き出し、俺自身が飛び出す槍となる。
「そろそろ息切れか」
俺の予想通り、ブラックドラゴンのブレスが途切れた。
「突き抜けぇっ!」
俺はブラックドラゴンの開いた口に向けて突進する。ドラゴンブレスが無くなった今、俺の前進を阻む物は無い。
「鱗に覆われていない口の中なら!」
あと少し、ブラックドラゴンの口の中から上顎を捉えようとした時。
「……惜しいねえ」
凱王が割って入り爪を振り抜く。
引っ掻いた爪が俺の剣に当たり、剣先をほんの少しだけずらした。
「くっ!」
俺は力を入れて軌道を修正しようとするが、俺の狙いを妨げるにはほんの少しのずれで十分だ。剣の切っ先はブラックドラゴンの硬い鱗に覆われた首に当たって弾き返される。
「まだまだぁっ!」
それでも諦めない俺は踏み込んだ左足に力を溜め、そのまま上体をかがませた。
「柔らかい部分はここにもあるっ!」
「なっ、しまっ!」
「食らえいっ、SSSランクスキル発動っ、重爆斬! 腹の鱗の隙間にねじ込めぇっ!」
俺は下方向に弾かれた剣をそのままブラックドラゴンの比較的柔らかい部分、腹の皮に突き立てる。
ブラックドラゴンの狂ったような叫び声が響く。
「逃がしはしない……前のようにはさせんぞ」
俺は突き刺した剣を柄まで突き刺す。
ブラックドラゴンは身体をよじらせ俺を引き剥がそうとする。
「だがその力が仇となったな!」
俺はブラックドラゴンが暴れる向きとは逆に剣を引っ張ると、そのままドラゴンの腹を引き裂き始めた。
ブラックドラゴンの死を意識した叫び声。
それに呼応するように凱王が飛び出す。
「させるかぁ!」
凱王が爪を振りかざし俺に向かって飛びかかる。
俺はブラックドラゴンから抜き払った剣で凱王の爪を弾いた。
「トリンプ、済まん!」
「ぐわぁっ!」
ブラックドラゴンの腹を割いた事で俺の剣にはドラゴンブレスの原料となる強酸が付着している。その剣で爪を斬ったのだ。酸で焼かれた爪は根元から折れて飛び散ってしまう。
生爪を剥がされた凱王は傷みに苦しみ、のたうち回ってこらえる。
「う、おのれぇ……よくも……はうっ!」
凱王がうめいた瞬間、動きが止まって身体の力が抜けた。
見れば凱王の背後には影のようにアガテーがいる。
「ゼロさん」
「丁度いいところだったな」
アガテーは凱王に後背からの影撃で忍び寄り、首に針を突き刺していたのだ。
「ぐ、こ、これは……」
凱王は俺に爪の剥がれた血まみれの手でつかみかかろうとする。
「アラク姐さんが作ってくれた神経毒を針に仕込んである。アガテーなら隙を見て注入してくれると思ったんでな」
「ニーズヘッグとの戦いで、ぼくの気を引いたのか……」
「ドラゴンが倒れそうになればお前が出てくる、そうすれば俺に集中して動きに隙が生まれる。もちろん俺に対してではなく、俺以外の者にとっての隙がな」
凱王は口を動かそうとするが神経毒が回って上手く動かせない様子だった。
「凱王、トリンプの身体は返してもらうぞ」