酸のブレス
ブラックドラゴンが一声いななく。
それだけでも部屋全体が振動して天井から砂埃が落ちてくる。
「あれだけの傷を負っているんだ、まだ本調子ではないだろうがそれでも流石はドラゴンだな」
俺は剣に魔力を込めると、覚醒剣グラディエイトはほの白く光を放つ。
「たとえドラゴンの鱗が硬くとも渾身の一撃を与えれば……Sランクスキル発動、重筋属凝縮!」
全身の筋肉が太くしなやかに引き締まる。
俺の強化を圧力と感じたのか、ブラックドラゴンが今一度咆哮を上げて身体をこわばらせた。
「来るか」
ブラックドラゴンは一瞬動きを止めたかと思うと、その直後に大きく口を開いてブレスを放つ。
「Sランクスキル、超加速走駆!」
勇者補正のSランクスキルで更に強化された超加速走駆を展開し、直線的に放出されたドラゴンブレスを躱す。
放たれたブレスは壁と床を溶かして焦げたような臭いを放った。
「ゼロ、酸だよ!」
ルシルが俺に状況を伝えてくれる。
「ほう、あの一撃を躱すとはねえ」
凱王は楽しそうに俺とブラックドラゴンの戦いを見ていた。
「そうか、ブラックドラゴンは酸のブレスを吐くんだったな。受け流そうとせずに避けたのが幸いしたか」
もう一撃、ブラックドラゴンがブレスを吐く。俺は横に動いてこれも躱す。
「酸なら物理防御で対処できそうだが、相手はドラゴンだ。ブレスに魔法属性が加わっていたら円の聖櫃でも突き抜けてしまうぞ」
俺はステップを踏みながらブラックドラゴンの出方を見守る。
ブラックドラゴンは足を踏みならしながら俺の方へと進んできた。
「じりじりと間合いを詰めてきやがる。だが突っ込んだところで酸のブレスを浴びてしまうときついな。前に戦ったスライム人間もそうだが、酸では完全毒耐性のスキルも意味が無いし、さてどうするか……」
ブラックドラゴンは俺に視線を合わせながら首を横に振る。
「しまっ……」
ドラゴンブレスが横薙ぎに出てきた。
ブラックドラゴンのブレスは直線上に吐き出されるが、ブレスをしている時に首を横に振ればそのまま広範囲へ鞭のように放出する事ができる。
「この位置を狙っていたのか!」
俺は避ける事ができるが、その後ろにはルシルとアラク姐さんがいた。
避ければルシルたちに酸のブレスが直撃する。成体のブラックドラゴンのブレスだ、食らえばただでは済まない。
「今からルシルたちを退避させる時間は無い……」
物理的に防御するしかないか。だとすれば凍結の氷壁で盾とするか。いやそれではドラゴンブレスには耐えられないだろう。
「Rランクスキル発動、氷塊の槍! 突き抜けろ氷の槍よ、酸をその一点より弾き飛ばして拡散させろ!」
俺は氷塊の槍を選択する。
左手から放たれた氷塊の槍は酸のブレスに真っ向から当たっていく。
「押し……負けるなっ!」
俺は放出した氷塊の槍に魔力を注ぐ。
氷と酸の勢いが均衡しあたかも氷塊の槍が空中で静止しているようにも見える。
だが、氷塊の槍の先端が酸のブレスを拡散させ、四方へと弾いていく。
「ゼロ……」
「安心しろ、お前たちにブレスは当てさせん!」