脱出か反転攻勢か
街は大混乱に陥っている。
俺たちは仲間を一人でも多く解放するため、敵を混乱させつつ救出を続けた。
「ゼロ、捕虜の警備として配置されていた敵兵はほとんど倒したよ!」
「よし、逃げる場所を確保したいが、このまま街の外へ出ても追撃されるか。こうなれば街の一角を占拠するぞ」
「判った。籠城できるような建物を探してみる」
「それなんだが、あそこを狙おうと思っているんだが。どうだ?」
俺は街の中心に高くそびえる建物を指さした。
「あれって……宮殿!?」
「そうだ。あそこを占拠してしまえば街の機能はほとんど失われるだろう。それに、トリンプもいるかもしれない」
俺とルシルの会話にアラク姐さんも加わってくる。
「ゼロちゃん、アラク姐さんはよく判らないけど、仮にも国の中心でしょう? 百人くらいの戦力で攻め落とせるものなのかしら」
「アラク姐さんはゼロの強さを知らないから」
「いや、あれだけの戦いを見ているから強さだけなら判っているつもりよ。でもねえ」
「大丈夫よ、あの地下迷宮もゼロの力で壊滅させる事ができたんだから」
そこへベルゼルがうやうやしく入ってきた。
「ルシル様のおっしゃる通りゼロ様であれば攻略、占拠は容易いと存じます。我々はゼロ様のお役に立つどころか足手まといになっている始末。汚名返上の機会を頂戴できれば幸いでございますれば、まずは我々は己の身を守る事ができると証明いたしましょう」
右手を胸の前に当てて深々と礼をするベルゼル。
「判った。ベルゼルたちも戦闘に次ぐ戦闘で大変だとは思うが、力を貸してくれ」
「滅相もございません。コームの町を死守する役目を果たせずこのような虜囚の恥辱を受けながらも生きながらえているワタクシめに、再戦の機会をいただけるなど望外の喜びに存じます」
ベルゼルは敵から奪った剣で石畳に印を結ぶと、そこから石でできた犬が何体も出てきた。
「石の猟犬。攪乱、護衛、足止めとこの犬たちもお役に立てるでしょう」
「これは頼もしい。仲間たちを助けてやって欲しい」
「承知つかまつりました」
「とりあえず俺が王宮を占拠する。そこで防衛線を強いてから次の事を考えるか」
俺の言葉に周りの者たちがうなずく。
「そうはさせないぞ反逆者どもめ!」
王宮までの道、立ち塞がるのは残った鉄巨兵とそれに乗ったゲンコーセンゼン。
「お前らごときでは俺を止める事はできないぞ」
「捕虜はほとんど奪われたようだがな、まだこの俺、ゲンコーセンゼン率いる精鋭が残っているぞ!」
ゲンコーセンゼンは隊列の前にいた者たちを呼び寄せる。
当然だろう、凱旋の行列だ。敵も連戦にはなるが勝ち戦で士気が上がっている兵士たちだ。最後の最後で格好の悪い真似はできないと思って向かってくるだろう。
なにせここは自分たちの街の中心地で起きた事なのだから。
「行けい鉄巨兵、我が部隊よ!」
「おう!」
鉄巨兵を先頭に兵士たちが押し寄せてくる。
「俺は鉄巨兵を叩く。他の者たちは方円陣を敷いて全周囲の敵に備えよ! 怪我をしている者は陣の中央に集まり治癒を受けろ、いいな!」
「おお!」
味方の部隊も陣形を整えながら敵兵への対処を行う。
「ゼロ様、ワタクシも鉄巨兵を潰す手伝いをさせていただければと存じますが」
「やってくれるかベルゼル、それは助かる」
「恐れ入ります」
「中心核を破壊できるのであればそれでも構わない。腕や足の関節を狙えば動きを止める事だけならできるからな。というより鉄巨兵に対しての戦い方はベルゼルの方が詳しいかもしれないが」
「鉄巨兵はかなりの数を潰しましたが、ゼロ様のように効率よくとは行きませんでしたので」
「それなら……アラク姐さん、手伝ってくれるか?」
「ゼロちゃん、なんだい? このアラク姐さんが何でもしてあげちゃうからね」
アラク姐さんは豊満な肉体を俺に押しつけてくる。
「い、いやあのね……」
「ゼロ……」
ルシルが真剣な目で俺をにらんできた。
「あー、ごほん。アラク姐さんの糸で鉄巨兵の足止めを頼みたいんだ。両脚を糸でつないでしまえば相手はあの大きさだ。人間の十倍はあるだけに足下が動かなくなってしまえば歩行が困難になるだろうし、勢いが付けば倒れてしまうだろうからね」
「判ったよ、ゼロちゃんの頼みとあればこのアラク姐さん、頑張っちゃおうかな~」
そう言うとアラク姐さんは俺の頬に唇を当てる。
「な、なっ」
慌てる俺。
「な、なっ」
慌てるルシル。
「じゃあ続きはまた後でね、ゼロちゃん」
そう言い残してアラク姐さんはベルゼルと共に鉄巨兵へ向かっていった。
「さ、さあ俺も鉄巨兵を倒しに行かなくちゃな」
俺は鉄巨兵とゲンコーセンゼンに意識を集中させる。
背中に刺さるルシルの視線は、今のところ無視しておこう。