打ち首行列
隊列が長く続く。歩いているのは俺の仲間たち。
噂話が周りの声となって聞こえてくる。
「なんでも辺境の港町を占拠していた賊らしいぞ」
「そうなのか! それじゃあ叩き潰されても仕方ねえなあ」
「まったくだ。でもよー、鉄巨兵も三桁はいたらしいけど、残りあれだけになっちまったんだとよ」
「ひええ、そりゃあ敵ながらすげえな! あの鉄巨兵がそこまでやられるなんて」
「だから凱王様は今回の敵だけはなるべく殺さずに捕らえろっていう話でさ」
「それでこの捕虜の行列って事か。また奴隷軍が増えるな!」
「ほんとほんと、凱国はどんどん強くなっていくぜ!」
見物人たちは高笑いをして捕虜の行列を見ていた。
俺はそんな見物人の一人に声をかける。
「何だい兄ちゃん」
「捕虜というわりには少なくないか、この行列だけだと」
「そりゃそうさ、あんた旅のお人だね? この行列は別名打ち首行列って言ってね、凱国の奴隷になる事を拒んだ奴が見せしめのために首を刎ねられるってもんだ」
「打ち首行列?」
「ああ、この先に処刑場があってね、このまますぐに打ち首になるんだよ! まあ入場券が高くて俺らはそこへ入れなかったんだけどさ」
俺は軽く礼を言ってその男から離れる。
改めて救出作戦をと思ったがそんな余裕は無かったようだ。このままではセシリアたちが処刑されてしまう。
「ルシル」
「何、ゼロ」
「捕虜の列はどれくらい通過したかな」
「指揮官たちばかりみたいに見えたから、まだ百人は行っていないと思うけど」
「そうだな、後続も同じくらいに見える」
俺はルシルの方に手を置く。
ルシルは俺の考えを察知したのか、思念伝達で意思の疎通を図る。
「でもゼロ、それだと……」
「大丈夫だ、俺がどうにかする」
「判った……ゼロがそこまで言うなら」
「ルシル、アガテーにあの事を伝えてくれ」
ルシルは返事をせずうなずく。
「皆にはRランクスキルの衛士の契約者が発動している。俺が近くにいて指揮を執るからな、効果も上昇するぞ」
「そうだけどさ、まだ皆に行き渡っていないよ思念伝達」
「ああ、だがあいつらも馬鹿じゃない。状況に応じて察してくれるさ」
「もう、それじゃあ合図して」
「なら今すぐだ! Rランクスキル発動、氷塊の槍、それも連撃だっ!」
俺は両手を天にかざすと氷塊の槍を大量に作りだし、捕虜の列に投げつける。
脇にいる男が俺に向かって笑って声をかけた。
「ははっ、ちょっと兄さんそれはやり過ぎだろう。卵とかならまだいいけどさ、氷の槍は」
「そうか? 奴らにはこれが必要だと思うがな」
「そんな物騒なの……え!?」
俺の放った氷の槍が捕虜の行列に叩き込まれ、捕虜をつないでいる鎖に命中する。
「お」
「これは!」
「ゼロ様!?」
捕虜となった者たちをつないでいた鎖が断ちきれ自由になった。
「お前たち、多少冷たいくらいは我慢しろよ!」
俺は捕虜となっていた仲間たちに呼びかける。
「氷の槍だ! 素手で不安のある奴は使え! 素手でも戦える奴は敵から奪え!」
「おお! ゼロ様!」
「陛下!」
俺は群衆から飛び出して行進の列に突っ込んだ。
手短な敵は斬り伏せ、まだ断ち切っていない鎖を破壊していく。
敵から奪った武器を素手で戦っている仲間たちへと放って渡すと、受け取った仲間たちが敵の護衛を抑え、他の味方を助けて回る。
「俺が突破口を開く! 陣形を組めっ!」
「おうっ!」
仲間たちが息を吹き返す。
影ながらアガテーが他の仲間の鎖を解き、武器を渡して他の仲間へと移っていく。
ルシルとアラク姐さんがその援護を行う。
「SSSランクスキル発動! 円の聖櫃! 戦闘に加われない者はこの中に入れ!」
虚を突かれた敵のその一瞬で俺たちは自分の部隊を形成した。
「婿殿!」
「セシリア!」
俺はセシリアをつないでいる鎖を剣で断ち切り、持っていた予備の短剣をセシリアに渡す。
「ありがとう婿殿、そして済まん……」
「説明は後で聞く。謝罪なら聞かん。ともかく今は生き延びる事を考えろ、いいな!」
「あ、ああ……」
返事をしたセシリアも意識をすぐに切り替え、次々と仲間を解放していく。
「ゼロ様!」
「ベルゼルか、造れるようなら動く骸骨を頼む、少しでも兵力と護衛を増やしたい」
「承知つかまつりました!」
挨拶もそこそこに、すぐベルゼルは近くの死体から動く骸骨を造り出す。死体は青白い炎に包まれたかと思うと、骨格だけ残って動き出すのだ。
「まったく、ゼロったら向こう見ずなんだから。ほら街中大混乱だよ」
「それも狙いの内だ。一人でも多く助け、一人でも多く逃がすんだ! 戦闘ができる者はセシリアに続け!」
【後書きコーナー】
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
令和元年の投稿はこれで最後です。
ここまで読了までおよそ20時間程度かかるとカウントされていたりしましたので、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。
おかげさまで、大晦日に350万PVをカウントするまでになりました。
令和二年も引き続き投稿していきますので、今後ともお楽しみいただけたら嬉しいです。
さて、捕虜となっていたセシリアたちを解放すべく動かざるを得なかったゼロたち。
やっぱり見過ごす訳には行かないと、今ある物で対抗しますがこれがどうなりますか。