虜囚の一団
人の波をかき分けて大通りへと向かう。
「騒がしいが、喜んでいるような騒ぎ方だな」
「何かいい事でもあったのかしら」
街の中が喜びに沸いている。
「また凱国の勝利だ!」
「トライアンフ第八帝国ばんざーい!」
人の間を通り抜けてようやく大通りが見えるところまで進む事ができた。
「凄いな」
大通りの中央を歩くのは軍の隊列。埃や傷で汚れてはいたが、兵士たちの顔には歓喜と達成感が溢れている。
「勝利、勝利、大勝利!」
「いいぞ! 反乱する奴らは根絶やしだ!」
俺たちは湧き上がる群衆に紛れて行進をする兵士たちを見る。
「なかなかの戦力が揃っているようだな……」
そんな中、巨大な鉄巨兵たちが歩いてきていた。
「ゼロ……あの鉄巨兵が十……二十はいるよ」
「あれが戦線に投入されていたら、一般の兵では太刀打ちできないか」
その鉄巨兵の肩に乗っている、ひときわ派手な飾りが付いた男が群衆に手を振っている。
指揮官だろうか、勲章や階級章のような物がたくさん貼り付けられていた。
「見ろ、ゲンコーセンゼン様だ! 百八星様ばんざーい!」
「凱国の剣、ゲンコーセンゼン様!」
あの指揮官のような男、鉄巨兵に乗ったゲンコーセンゼンは、満面の笑みで群衆の声に応える。
「百八星……。中にはこういった軍の中枢に入る者もいるのだな」
「ごろつきたちとはまた違う奴だね」
「役割的なものだろうか」
俺たちが声を潜めて話し合っていると、周りの空気が変わってきた。
「百八星様ばんざーい!」
「おい、来たぞ、蛮族どもだ」
「捕らえた反逆者どもだぞ!」
「凱国に、トライアンフに反逆する愚か者めー!」
「身の程を知れっ!」
飛び交う罵声、投げ入れられる野菜くずや腐った卵。
鉄巨兵の後を鎖でつながれている連中が歩いている。
ところどころ怪我をしているがろくな手当はされていなく、乾いた血が破れた服にこびりついていた。
「ゼロ……」
俺は歩いている連中の姿を見て全身に震えが走った。
「セシリア……ベルゼル……ドレープ・ニールもか」
俺たちの軍の主たる面々が捕らえられ、引きずり回されているのだ。
全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
「ゼロ、駄目だよ」
「判っている……この街の人々は平和に暮らしている。活気もある。搾取の上に成り立っているとはいえ平和に過ごしているのだ。ここで騒ぎを起こしたとして市民にまで被害が及ぶような事があれば、それは俺の望む戦いでは……」
「それは建前、私にとっては敵国に市民だからどうでもいいんだけど」
「……救うにしても捕らえられている仲間が多すぎる」
「うん」
救助に向かったとしてこれだけの軍勢と鉄巨兵二十体を相手に、捕らえられた仲間たちを無事に解放する事は難しいだろう。
「ここはこらえて、機会を探そう。他にもっと捕らえられている仲間がいるかもしれない。シルヴィアたちとか」
ルシルに諭されて俺は血が出るのも構わず下唇を噛みしめた。
「ああ、判った、判っている……」
俺はさっき食べていたイモ餅の串を鉄巨兵に乗る男へと投げつける。
背後からの一撃だったが、その男は振り向きもせずに飛んできた木の串を二本の指で挟んで受け止めた。
「ん?」
「どうなされました、ゲンコーセンゼン様」
側近の騎士がゲンコーセンゼンに尋ねる。
「いや……」
俺は一瞬だけ振り向いたゲンコーセンゼンと目が合う。
「これから面白くなりそうだぞ」
遠くなる鉄巨兵たちの足音にかき消されながら、かろうじて聞こえた言葉だった。