大怪我と回復魔法
モンデールを撃った男のことはもはやどうでもいい。それよりもだ。
「大丈夫かモンデ!」
俺はモンデールの胸に深く刺さっている弩弓の矢を見た。矢の脇から滲み出るように赤い染みが広がる。
「ゼロ様、荷馬車の荷台を空けたよ、早くっ!」
「助かる!」
カインが荷台に場所を作ってくれた。ある程度商品が売れていたから荷物が邪魔にならずに助かった。
応急処置をするにしても地べたでは汚れが気になる。かといって商品の陳列棚では狭くて不安定だ。
「よし、乗せた! カイン、綺麗な布があったら用意してくれ! シルヴィアは強めの酒、蒸留酒がいい! 探してくれ! ルシルはこいつの手足を押さえていてくれ、暴れるかもしれない」
俺が指示を飛ばしそれぞれが動く。
「だ、大丈夫だ、これしきの傷……」
「喋るな、口から血の泡を吹いている。傷はお前が思うより深いかもしれない」
「よい、これは俺の落ち度、お前たちには、頼らん」
「目の前で市民を守れなかった、落ち度というならこれは俺の落ち度だ」
「なぜ……お前は関係無い……ただの商人の護衛……」
「だが勇者だ」
「ゆう、しゃ……」
「いいか、俺の回復魔法は勇者系だからあまり深い傷だとすぐには治らない。それに異物浄化の効果が無いから矢が刺さったままだと矢自体が身体と癒着してしまう」
俺は上質な布の服を脱がせながら弩弓の矢を見る。
抜くときに大量の出血があるだろうか。その時は回復魔法を重ね掛けするしかない。
「脱がしにくいな。すまんが破るぞ」
「あ、ああ、大丈……」
大丈夫と答えようとしたのだろうが途中で意識が飛んだのか、苦しそうに目を閉じた。
呼吸が荒く早い。
俺は弩弓の矢を気にしながら、上着の部分を丁寧に破る。
「なっ……」
「どうしたの、ゼロ!」
心配そうにルシルが覗き込んできた。
「あ……」
布できつく縛って上着も身体を締め付けるような物だったために脱がしにくかったのだが、服を脱がせた今は判る。
二つの大きな膨らみ。
「ゼロ、モンデールさんおっぱいあるよ……」
お、おおお、っぱ……、おっぱい、モンデールさん。
「ゼロ、ゼロ落ち着いて。今はゼロが頼りなんだよ、回復魔法を使えるのはゼロだけなんだよ」
「お、おう、すまん。少し気が動転していた。ふぅ、もう大丈夫だ、よし、ルシル、こいつの身体を押さえていてくれ」
俺は鎖骨の辺りに左手を添え、右手でモンデールの胸に突き刺さった矢をつかむ。
「行くぞ」
俺は右手に力を入れ、刺さった角度と真っ直ぐになるように調整する。
「ここ……だっ!」
向きを合わせて一気に引き抜く。
抜いた後に吹き出す鮮血。シルヴィアが持ってきてくれた蒸留酒を傷口にかける。モンデールは意識がないはずだが痛みに反応して身体が大きく跳ねた。
「重篤治癒!」
傷口から噴き出す血を拭う。次から次へと溢れてくるが、傷口が徐々に塞がっていく。
俺の使える最高クラスの回復魔法だ。これが効いてくれれば。俺は回復魔法をかけながらそう祈っていた。