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高価な餌の効果

 凱王は右手の指を切り落とされて左脇の下に挟み込む。


「痛みは感じるし血も出ている。本体がお出ましって事か」


 凱王が左手で剣を抜いた。


「戦っている最中は痛みなんて気にしていられないからねえ。指がうずくよ、熱いくらいにねえ!」


 力を入れているのか、おびただしい流血はないものの一定間隔で血が噴き出していた。


「傷はふさがるかもしれないが欠損した部位は復活しないからねえ。これだから人間の身体っていうのは不便で困るよねえ」

「今まで思念体を使って泥人形ゴーレムを操っていたんだろう? その感覚が抜けないからそうやって無謀な戦い方になる」

「百戦錬磨の勇者くんだけあるねえ、戦い方を知っているよ」


 凱王は間合いを取りながら剣先を揺らす。


「どうして直接俺を叩こうとしたんだ。それも単体で」


 額に脂汗を溜めながら凱王はすり足で俺の横に回ろうとする。


「王と言ってもぼくは使い捨ての王。凱国を強固にしてトライアンフ第八帝国内での地位を不動のものにするためには簡単に斬り捨てる。それが国家というものなのだよねえ」

「そんな、雇われ国王みたいな……」

「ははっ、雇われ国王か。面白い表現だねえ。でもなんだかしっくりくるよ勇者くん」


 声は笑っているが顔は笑っていない。

 凱王は剣先を俺に向けて動きを止める。


「要はぼくで足止めをしているに過ぎないようだねえ。今頃はトライアンフの本隊が動いて勇者くんたちの国を踏み潰すべく進軍を始めているんだよねえ」

「なんだと!?」

「見たところ勇者くんの強さは本物だ。ぼくだって欲しいと思ったよ。でもね、味方にならないんだったら一番にて欲しくないところにおびき寄せてしまえばいいんだよねえ」


 凱王の顔が不敵に歪む。


「ぼくみたいな餌を使ってでもねえ」


 やられた。

 トリンプが帝国皇帝だという話は聞いた。トリンプの記憶が定かではないから情報の真偽は判らない。だから俺に同行してもらったという事はある。

 だが他の皆はどうだ。


「コームの町にいる皆や、俺たちの大陸の民は……」

「沿海州ごと飲み込むような大船団で進んでいるからねえ。今まで地方の奴隷軍で攻めていた時とは規模も練度も桁違いだからねえ」

「だ、だがそんな動きはまったく……」

「神はこういうときに役立ってくれた、という事だねえ」

「な、神……だと!?」

「そう、ぼくたちは神と呼んでいる存在。彼らがあの虫どもを大量に発生させ、嵐を起こし、大地を引き裂いているんだよねえ」


 凱王はいったい何を言い始めているんだ。

 神? 確かに女王虫も死に際にそんな事を言っていたような気もするが、あれはただの断末魔で言葉だけのものかと思ったが。


「君たちが虫どもにうつつを抜かしてくれたお陰でぼくたちの動きが楽にできたというものなんだよねえ。神も粋な計らいをしてくれる。ぼくの軍も少し犠牲になったけど、結果としていい方に向かったんだ、無駄死にじゃなかったねえ」


 そうか、女王虫の駆除に俺が地下へ潜っていた、その時を凱王は見逃さなかった。

 思念体で俺たちを見張りつつ、その隙を突いて進軍する。


「ルシル、ベルゼルと連絡が取れるか!?」


 俺の問いにルシルは首を横に振った。


「だから言っただろう? トリンプ様をこちらに渡してくれれば東の大陸はそのままきみたちの支配でいいと。ぼくたちは今それどころじゃあないからねえ」


 確かにそんな事をあの地下迷宮で言っていたが。


「ぼくたちは今、神との戦いを前に国力を増強させなくてはならないんだよねえ。同盟を組めないのであれば飲み込むしかないからねえ!」

「神との戦い……だと」


 凱王とトリンプを交互に見る。

 トリンプは自分の事ではあるものの記憶が無い事に戸惑いを隠せない。


「大地に生きる者をまとめ上げねば、神との戦いには勝てないんだよねえ。そのためにはきみたちには滅んでもらうしかなくなってしまったんだよねえ」


 凱王は大きく振りかぶって襲いかかってきた。

 俺は凱王の剣を軽くいなす。

 思ったよりも剣に重みがない。


「ぼくの攻撃が剣だけと思ったのかねえ?」


 振り下ろし、叩き付けた剣を凱王は手放していた。


「そう……きたか!」


 凱王の爪が俺の右腕を狙う。

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