素人剣法大振り作戦
地上に落下したドラゴンは体制を立て直しながら着地したのだろう。翼が不自由となっても四肢は無事だ。落下の衝撃をその強靱な脚で吸収したようだ。
「翼は使えなくとも身体へのダメージはそれ程でも無いか、さすがはドラゴンだな」
俺はゆっくりと着地したウィブの背から降りる。
「ゼロ、気をつけて」
続いて降りてくるルシルとトリンプ。アラク姐さんは鞍に乗せたままで、アガテーはもうどこかに身を隠している。
「地上に墜としたとはいえドラゴンはドラゴンだ。ウィブは上空から警戒していてくれ」
「承知した、様子を見つつ援護するかのう」
「そうしてくれ。ドラゴンブレスには気をつけてな。それとアラク姐さんを頼むぞ」
「ああ、勇者もな」
そう言い残してウィブは空へと飛び立つ。
ワイバーンはブレスを吐かない。アラク姐さんも遠距離攻撃はできないだろう。とにかく今は安全な場所にいてもらいたい。
「また怪我をしたらアラク姐さんにしか頼めなさそうだからな」
あの魔力吸収の傷は厄介だからな、それだけは受けないようにしないと。
「どうする、ドラゴンと共に戦うというのか……凱王!」
俺はドラゴンの背にまたがっている男に声をかける。
精悍な顔つき、頭には片手剣ほどの長さの角が二本生えていて、その角の周りを王冠が飾っていた。
「そんな長い角、不便じゃないか?」
「そうだねえ、ぼくは一応人間だからねえ、後天的な角のお陰で最近は横になって寝るのにも苦労するんだよねえ」
「それは大変だな。息絶えたら横たわっても角が気にならなくなるぞ。それとも後から生えたんだっていうなら俺がへし折ってやってもいいんだがな」
「最後の最後だったらそれもいいだろうけどねえ、今は遠慮しておくかねえ。必要がなくなったら頼むとしようかねえ」
「別に今手伝ってやってもいいんだぜ?」
「なかなか協力的で嬉しいねえ。ぼくの魔力が枯渇したら勝手に取れるから、心配しなくてもいいからねえ!」
凱王は俺に向かって駆け寄る。
両手から光る爪のような物が見えた。物理的な爪ではなくエネルギーの塊のような光る爪だ。
「それが厄介な爪か」
「どこまで躱せるかな?」
「躱す必要があれば、な!」
俺は超加速走駆を発動させる。一気に凱王との間合いを詰めて奴の手首を狙う。
「速いねえ」
凱王は軽くステップを踏むと俺の剣撃から身を逸らす。
俺は手首をひねって剣の軌道を変えるが、その先にはもう凱王の身体はない。
「振りが大きいねえ。力任せに剣を振るうだけではただの素人剣法だねえ」
凱王が俺の背後を取って俺の首筋を爪で狙う。
「かかったな」
左手で太ももに下げていた短剣を抜き、弧を描くように素早い動きで振り抜く。
俺はあえて剣を大振りする事で隙を作ったように見せたのだ。
「素人臭さに集まってくる害虫のようにな、すぐに食らい付いてくるとは思っていなかったが」
「ぐっ、ぐわぁぁ!」
地面に四本の指が落ちる。
光る爪ごとだ。
「お、おのれぇ……」
「害虫よりも食いつきがよくて助かるぜ」
俺は転がった凱王の指を踏みつけた。