空気を制する者は空を制す
俺はワイバーンのウィブにまたがってブラックドラゴンを追う。
「やはりドラゴンは翼を痛めているようだのう。動きが鈍いわい」
ウィブが言った通り、敵のドラゴンは飛行速度も旋回力も前程の動きをしていない。
「剣撃波のダメージが響いているようだな。だが俺も危なかった。あの凱王の爪にやられたままだったらよくて引き分けだったと思うぞ」
「それはゼロ、私たちはチームだから」
ルシルの言葉にアラク姐さんが横たわりながら親指を立てる。
「皆は鞍の中で身を守っていてくれ。円の聖櫃をかけておく。奴の技はそれを突破するかもしれないからな、気休め程度かもしれないが」
そう言って俺はSSSランクスキルの円の聖櫃を発動させ、鞍を物理防御の壁で包み込んだ。
「ゼロ、魔力は透過できるから援護射撃は任せて!」
「ああ任せたぞルシル!」
旋回したドラゴンが大きく羽ばたいたかと思うと、翼を閉じて背筋を伸ばす。
身体を真っ直ぐにする事で更に速度を上げようという事か。
「これで最後にしてやる……」
俺は剣を握りしめながら向かってくるドラゴンとそれに乗る凱王に集中する。
「斬撃は効くんだ。それに……Rランクスキル雷光の槍っ!」
俺は電撃を放つ。当然凱王は俺の放った電撃を魔力吸収の力で消し去るが、その動きのために一瞬の隙が生まれる。俺の攻撃に合わせてルシルも援護として電撃を放つ。手数で勝負だ。
「追加で叩き込むぞ! Sランクスキル発動、閃光の浮遊球!」
続けざまに俺は光の球を投げつけた。
「相手は一人だ。全てを潰そうとすれば隙が生まれる」
大量の光の球を凱王に投げつけ、俺はドラゴンの下をくぐるようにしてすれ違う。
暗闇を照らすただの光の球。触れたところで何も起きない、ただまぶしいだけの球だ。
だがそれだけの物を、凱王は当然のように消し去る。
いくつも作りだした光の球は凱王にまとわりつき、その一つ一つを消していく。
「そんな物にかまけていれば背後を取る事もそう難しくはない。ましてや既にドラゴンの旋回力はかなり低下しているからな!」
ウィブはドラゴンの背後に付ける。この状態であれば凱王の爪は届かない。
「Sランクスキル剣撃波っ! 斬り割けっ!」
俺は渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
斬撃が凱王に向かっていく。
「いくら空間を斬り割く程の斬撃だろうとも、この凱王の滅魔匆爪で魔力の技は消し去ってやるからねえ!」
「判っていないな。空気を斬撃で斬り割いて、そこから生まれた真空がお前たちを切り刻む」
「なっ、にっ……」
いくら無力化させようとも自然現象は打ち消す事ができない。
「さっきすれ違いざまにドラゴンの翼を斬られていた事に、もっと早く気付くべきだったな」
「な、まさか、既に……!」
「そして空気の力がお前に効くのであれば……SSSランクスキル発動っ! 重爆斬! 大気の爆圧をその身に受けるがいいっ!」
俺は剣で空を斬る。
その剣が生んだ圧力が空気の壁となって凱王を押し潰す。
「ぐっ、ぐばっ!」
凱王とドラゴンは巨大な空気の塊にはたき落とされるようにして落下していく。
そして地面に叩き付けられて大きな土煙を上げる。
「よしっ、ドラゴンはたたき落としたぞ!」
俺はウィブに命令して着陸態勢に入った。
「まだ生きていれば地上戦か。まああれくらいでは簡単にはくたばらないだろうがな」
俺は自分の手でとどめを刺さすようにと、急降下を行う。