空を駆ける爪
ウィブにSSランクスキル騎士の契約者がかかっている。その影響もあってブラックドラゴンに引けを取らない速度を手に入れた。
「勇者ぁ! ドラゴンの後ろを取ったからのう!」
「ようし、放てぇ!」
俺が氷の弾を放出し、ルシルが、トリンプがそれぞれのスキルで攻撃を仕掛ける。
氷が、電撃が、炎の塊がブラックドラゴンを背後から襲う。
「いっけぇ!」
だが俺の叫びも目の前で起きた事にかき消された。
「なっ、まさか……またか!」
そう、これは俺が経験した事。
「魔力吸収……」
ドラゴンの背に乗る者には大きな角が二本見える。
初めは飾りのように見えたがあれは飾りではなかった。
「凱王っ!」
俺は声を絞り出しながらも目の前にいる男に向かって叫ぶ。
「ぼくはねえ、勇者くん。君が来るのを待っていたんだねえ」
俺のよく知るのんびりとした口調。
だが透き通る空に刺さるような通る声。
「ウィブ、ドラゴンを捕まえられるか!?」
「ぬむぅ、容易ではないがやってみるかのう!」
「頼む!」
ウィブは更に加速してブラックドラゴンに迫る。
「させないねえ」
凱王は騎乗するブラックドラゴンを巧みに操り、急上昇でこれを躱す。
ウィブはドラゴンの上昇に合わせて首を上げ、後を追う。
「ついてくるとは流石だねえ。でもこの速度でこの高さ……」
凱王は頭に載せている冠から宝石を一つつまみ取る。
「この宝石、ただの石だとしても」
そのつまんだ宝石から手を放す。
上昇するドラゴンとは違い、宙に浮いた宝石は瞬時に俺の目の前へと落ちてきた。
「なっ!」
そして固い物に当たる音が澄んだ空に響く。
「ゼロっ!」
「ゼロしゃん!」
宝石は俺の額にめり込み、割れて砕けた。
額から噴き出す血。
「大丈夫だ、これくらい……」
「でも凄い血が!」
「額は派手に出血しているように見えるだけだ。量としてはたいしたことはない」
「待って、今治癒を」
「構うな!」
俺は口まで風で流れてきた血を舌でなめ取る。
「面白い事をやってくれるじゃないか……」
俺は懐から金貨を取り出すと指で弾く。
上昇する時の空気の壁をものともせず俺の弾いた金貨が凱王に向かって飛んでいった。
「わっぷ!」
凱王のこめかみを金貨がかすめていく。
「やるねえ、勇者くん!」
凱王はこめかみから血を流して俺に讃辞を投げる。
凱王のドラゴンは上昇をやめ急旋回を始めた。
「いいだろう、受けて立つ!」
今度は逆にドラゴンが急降下をして上昇する俺たちと向かい合う。
瞬時に間が詰まる。
「うおあぁぁ! Sランクスキル発動、剣撃波ぁっ! 空ごと斬り割けっ!」
俺は覚醒剣グラディエイトで空間を断ち割る。
「空が、割れたっ!?」
凱王が驚きで目を丸くした。
すれ違いざま、俺が見た凱王の姿だ。
「がぁっはっはっは! これは凄いねえ!」
遙か下の方で凱王の笑い声が聞こえる。
「ぬぐっ!」
俺は肩口から激しい出血をしている事に気付いた。
「い、いつの間に……」
急いでルシルが治癒のスキルを発動させ俺の傷をふさごうとする。
「あっ……ゼロ……」
肩の傷から俺の血と魔力が大量に出て行く。
「ルシルの……治癒が効かない……Sランクスキル……グ、重篤治癒……」
俺は自分で治癒スキルを発動させるが傷口がふさがるどころか魔力が更に傷口から出て行ってしまう。
「ま、魔力中和か……」
凱王の笑い声が聞こえる。
「そう、ぼくの爪は魔力を吸収し魔力を中和する! スキルだなんだとインチキ臭いその力もぼくにかかれば無力、無力なんだよねえ!」
「凱王……っ」
「それがぼくの王技、滅魔匆爪なんだねえ!」