ワイバーンナイト
空を飛んで凱国に向かう俺たちの前に、これもまた飛んでやってきた黒い悪意。
「ブラックドラゴンとはのう!」
ワイバーンのウィブの武者震いが背に乗る俺たちにも伝わってくる。
「来るぞ!」
「承知っ!」
俺の掛け声に合わせてウィブが右に旋回し、それまで俺たちのいた空間に黒い塊が通過した。
「速いよゼロ!」
「振り落とされるなよ!」
右に回ったところでそのままドラゴンの背後を狙う。
「くぅっ、儂には厳しいのう!」
「どうしたウィブ!」
「腐ってもドラゴンだのう、儂の力ではあの速さには届かんのう」
ウィブの言う通り、ドラゴンとワイバーンではその力も速度も桁違いだ。
その上ドラゴンの中でも飛び抜けて強く速いブラックドラゴンでは、ワイバーンのウィブが力負けするのも仕方のない事だった。
「ゼロ、ドラゴンブレスが!」
「ウィブ回避だ!」
「グゥッ……!」
黒い渦巻きがブラックドラゴンの口から放たれる。
ウィブはかろうじてそれを躱すが、直撃していなくともその余波で翼が震えた。
「なんて圧力だ!」
「これがブラックドラゴンの力……」
「それに速い……」
俺たちの冷や汗は風に飛ばされていく。
次々と放たれるドラゴンブレスにウィブは避けるだけで精一杯だった。
「くっ、これでも食らえっ! Sランクスキル発動、凍晶柱の撃弾! 氷の弾よ縦横無尽に撃ちまくれっ!」
俺は凍晶柱の撃弾で反撃するがドラゴンに命中する直前でドラゴンが急加速した。
俺の放った氷の弾は虚しく空中を通過する。
「やるな……敵ながら流石だ」
ルシルとトリンプも電撃や炎を撃つが高速で回避するブラックドラゴンを捉えられないでいた。
「これはどうもいかんのう」
「どうしたウィブ……あっ!」
ウィブの翼の先にドラゴンブレスがかすったのだろう、皮膜が破れて風をつかめなくなっている。
「何のこれしき、この程度では儂を墜とす事などできんからのう!」
「そうだウィブ、俺たちがいる! そして王たる俺がいるぞ!」
「ほほう、もしかして勇者よ」
「ああ、今ワイバーンのウィブを我が騎士として我が刃となる事を認め、ワイバーンナイトの称号を授けよう!」
「オオオーッ!」
俺の宣言でウィブの身体が一瞬光に包まれた。
ウィブに力がみなぎってくる。
俺がウィブを騎士に任命した事でSSランクスキル騎士の契約者がウィブに発動したのだ。
「これは凄い!」
ウィブが加速を始める。
徐々にブラックドラゴンとの距離を詰めていく。
「速い、速いよウィブ!」
ルシルも吹き飛ばされないように鞍へしがみつきながら、それでも顔には笑みが浮かんでいる。
「背後を取ったぞ!」
「これなら行けるよ!」
俺たちは前方に見えるブラックドラゴンに狙いを定めた。