吊らされてワイバーン
「痛っ!」
「我慢だのう」
俺の肩にワイバーンの爪が食い込む。そしてワイバーンが羽ばたくたびに周りの砂を巻き上げて視界が悪くなる。
その中でワイバーンのウィブは発する声はきちんと俺の耳に飛び込んで来た。
「そうれ引くからのう!」
「まっ、ちょ、痛たたた!」
俺の肩から血が出てくる。引き上げる力は相当のものだが俺の半身が砂に埋もれている状況ではなかなか砂から出られない。
俺の両肩に体重以上の力がかかっているのだ、肉がもげる程の痛みが走る。
「まあ後で治癒でもしてもらうかのう」
「わ、判った、でももう少しだな……」
「そんな事言ってもだのう、ほれぇっ!」
「ぎゃっ! いってぇ!」
痛みに耐えた結果、ウィブの爪は俺の肩を貫通していた。
だが砂の流れからは抜け出して、俺はウィブに吊される状態で空に舞う。
「大丈夫かのう」
「痛いには痛いけど、助かったよ。ありがとう」
「確かに死ぬよりはマシ、かのう」
「その通りだよ。生きていれば治癒で傷も塞ぐ事ができる」
「だったら今治癒をかけたら少しはいたくなくなるのではないかのう?」
「そうしたらお前の爪が肩にめり込んだ状態でくっついてしまうからな」
「儂らずっと一緒になってしまうのう!」
「それは勘弁してもらいたい」
「儂もだのう」
俺たちは笑いながら空を飛び、安全なところまで行って地上に降りる。
「ゼロ、今治すね。SSSランクスキル蘇生治癒、かの者の傷を癒やし給え!」
ルシルが俺の傷を手当てしてくれた。
ずっと俺の肩に居座っていた焼けるような痛みが引いていき、傷もふさがっていく。
「ありがとうルシル、助かるよ」
「生きていてよかった」
「全員無事で、な」
俺は周りを見回す。ルシル、アガテー、トリンプ、そしてワイバーンのウィブ。そこから少し離れて見た目は人間の身体のままの蜘蛛女のアラク姐さん。
「結果的に何かと助けてもらったな、アラク姐さん」
アラク姐さんは少しもじもじしながら上目遣いで俺を見る。
「不幸な出会いでもあったし棲み家もあの通りだが……」
アラク姐さんの巣は石の建物と一緒に砂の中に没してしまっていた。
「まあいいさ、切り替えないとこの厳しい世界じゃあ生きていけないんだよ」
「そうか。強いんだな」
「そうさ、アラク姐さんは強いのさ!」
人間の腕と背中から生える蜘蛛の四本の脚を腰に当てて胸を張る。
「これから棲み家をどこかに探さなきゃね。まずは近くのオアシスでも見つけて……」
照れくさそうに蜘蛛の脚の一本で頭をかく。
「う~ん、町に空き家はいくつかあるからそこから適当に見繕ってくれてもいいんだけど」
「え、何言ってんのさ。このアラク姐さんが人間の町になんか住める訳がないだろう?」
「そうなのか? やっぱり種族が違うと人間の家じゃあ都合が悪いのかなあ」
「あ、いやそうじゃなくて、アラク姐さんみたいなのがいたら怖がったり気持ち悪がられたりとかさ……」
「なんだそんな事を心配しているのか。だったら大丈夫」
強い風が吹いて俺たちの周りに砂埃を巻き上げる。
風の吹いた方向を見ると、ウィブの背中にルシルたちがもう乗っていた。
「ねえゼロ、ここは砂が凄いからさ、一旦他に行って話をしようよ」
ルシルたちが手招きする。
「ま、という事だからさアラク姐さん、ひとまず落ち着けるところへ行こうよ」
俺はアラク姐さんの手を引いてウィブの背中に乗り込んだ。