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食い込む影

 すり鉢状のくぼみが砂を次々と吸い込んでいく。その流れにトリンプも取り込まれ、見る間にすり鉢の中心部へと流される。


「ゼロしゃん!」


 悲鳴を上げてトリンプが手を伸ばす。


「トリンプ!」


 俺はアラク姐さんの糸を頼りに砂の渦へ飛び込み、トリンプの手をつかもうとする。


「もう少し……Sランクスキル発動、超加速走駆ランブースト! トリンプまで加速して飛び込めっ!」


 俺の動きが瞬時に速くなる。自分から渦の中心へと向かう事は自殺行為にも思えるが、それを躊躇する気持ちを振り払う。それはアラク姐さんも信用するという事でもある。

 まさに俺の手にしている蜘蛛の糸が命綱なのだから。


「トリンプ!」


 俺はトリンプの指先に触れる。もう一歩踏み出せば手が届く。


「思ったよりも砂の流れが速いな! もう一発、Sランクスキル超加速走駆ランブーストの重ね掛けだ!」


 砂を蹴っても力が吸収されてしまう。だが砂は固い物で急な力を加えると瞬間的に堅くなる性質もある。


「それっ!」


 俺は砂地を力一杯蹴りつける。一瞬だけ固まった砂が俺の足場になる。


「この一瞬だけでも力が入れば!」

「ゼロしゃん!」


 俺はトリンプの手首をつかむ。トリンプも俺の手首を握る。

 握手をするようにつかむより、こうしてお互いの手首をつかみ合う方が抜けにくくなるのだ。


「よし! アラク姐さん!」


 砂の流れる音が邪魔で俺の声が届くだろうか。


「アラク姐さん!」

「はいよっ!」


 砂の音に混じってアラク姐さんの声が聞こえた。

 これなら行ける!


「引っ張ってくれ!」


 俺は叫ぶと同時に蜘蛛の糸を何回か引っ張って合図を送る。


「……判った……でも……砂……!」


 よく聞き取れないが、どうやら砂の力が凄まじく引き上げる事が難しいみたいだ。


「流石にこの流れに二人分は負担が大きいか」

「ゼロしゃん……」


 トリンプは俺の腕をつかんでよじ登ってきた。

 俺はトリンプをつかんだまま引き寄せる。

 トリンプが俺の腰に腕を回す。


「よし、トリンプはこの糸を使え」


 そう言って俺はアラク姐さんの糸をトリンプの身体に巻き付ける。


「いいぞ、そしてこの状態で……」


 俺はトリンプの身体を両手で押さえ、ゆっくりと力を入れた。


「行くぞ!」

「え、ゼロしゃん、ちょっ!」


 俺はトリンプを砂の流れから引き上げ宙に浮かせる。

 その状態からすり鉢の外へ向かって放り投げた。


「ゼロしゃ~ん!」


 砂を巻き上げながらトリンプが宙を舞う。

 アラク姐さんの糸もあるからこの蟻地獄みたいな所からは抜け出せるはず。


「おっと、俺の方がまずい事になったな。腰まで砂に埋もれると結構身動き取れないぞ。それにどんどん流されていくし……」


 俺は両手に魔力を集中させる。


「Rランクスキル発動、凍結の氷壁(アイスウォール)! 氷の板で足場を……くっ、砂が安定しないから氷ができても流されていくぞ……」


 砂を氷で固めようとしたが失敗。


「SSランクスキル発動、豪炎の爆撃(グレーターボム)! 爆風で身体を浮き上がらせよっ!」


 俺は砂の流れに逆らうよう爆発を利用して飛び出そうとする。


「爆撃も吸収されるなんてな……。砂は恐ろしいな。悪意のある者の動きではなく、単なる自然現象なのだから、こうなったら俺も覚悟を……」


 流される砂、流される風。


「太陽はこんな時でも俺たちを照らして……ん?」


 一瞬。

 太陽を横切る影。


「お」


 その影が段々と大きくなってもう一度太陽の前を横切る。


「ふう……」


 俺は砂に流されながらも肩の力が抜けた。

 その肩に鋭いナイフのような物が突き刺さり、食い込む。


「あいった!」


 俺の肩に巨大な爪が突き刺さっていた。

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