蜘蛛の糸
瓦礫が落ちてくるという事は。
「ふんぬ!」
俺は糸を思いっきり引き寄せ、その先にある瓦礫を近付ける。
「Sランクスキル発動、超加速走駆! 瞬時に捉え、駆け抜けろ!」
目の前に来た瓦礫に足をかけて超加速走駆を発動させた。
つま先に力を入れ瓦礫を蹴り飛ばす。その勢いで少しだけ身体が上に上がる。
「だがこれでも落ちている事には変わらない。次だっ!」
目の前の瓦礫に足をかけ、更に跳び上がった。
ルシルとトリンプごと俺の身体を持ち上げるのだ。
「ゼロ、右上!」
「よし!」
近くにある瓦礫を次々と足場にして跳んでいく。
「しゅごい……ゼロしゃんどんどん登ってくよ!」
落ちてくる瓦礫を見つけては飛び乗って行った。
「まだ……先が」
「もうほとんど天井が、足場がないよ!」
瓦礫もほとんど崩れてしまっただけに、上の層までは届かないか。
「くっ、ここまでか……いや!」
目の前に大きな塊が落ちてきた。
「これを最後に!」
俺は力の限り跳躍する。上の層がもうすぐというところだが。
「足場は見えているんだ! これを跳び越えられなくてどうするっ!」
俺は抱えているトリンプを思いっきり放り投げる。
「ゼロしゃん!」
トリンプはぎりぎりのところでどうにか上の層の床に手が届いた。
俺の跳躍も頂点を超えて落下が始まる。
「ルシル、お前も」
「ううん」
ルシルは俺の首に腕を回して抱きついたまま首を横に振った。
「かわいそうだから落ちる時も一緒だよ、ゼロ」
「そうか、付き合わせちまって悪いな」
「今更だよ」
段々と落下速度が上がっていく。上の層が遠くなっていった。
「なあ、この下の階層はどうなっているんだろうな」
「さっきゼロが焼き尽くしちゃったからね、焦げだまりになっているんじゃないの?」
「かもな。上手く衝撃を緩和できれば……」
俺は着地した時の事を考えて爆風と剣技でダメージを軽減させる方法を考える。
地底まではまだ若干の余裕があるはず。それまでに体制を整えれば……。
「死なせはしない」
「どこまでもついていくよ」
俺とルシルは落下しながらお互いの顔を見つめる。
「うぎゃっ!」
俺の喉から変な声が出た。
「ゼロ大丈夫?」
ルシルはのんきに俺の顔色をうかがう。
遙か上方から延びてきたロープが俺の喉に絡みつく。
俺たちの落下は止まったが俺の首に掛かる衝撃は尋常じゃない。
「ぐ……ぐるじい……」
「ゼロ、これ蜘蛛の糸?」
俺の首に巻き付いて締め上げているのは上から垂れてきた蜘蛛の糸。
「ゼロさーん!」
ずっと上の方でアガテーが呼びかける。
「つかまったらこれを伝って登ってきて下さーい! 聞こえますかー、ゼロさーん!」
アガテーの声が段々と小さくなっていく。
返事をしようにも声が出せない。
「ゼロ……あーあ。白目剥いち……」
ルシルの声も途中から聞こえなくなっていた。
苦しい……。