溶かし溶かされ溶解対応
蜘蛛女は天井から逆さづりの状態になっているが、偉そうに腕を組んで俺たちの様子を見ている。
服と言う程の物ではないが、蜘蛛の糸をたくさん巻いたような布を身体に巻き付けていた。
「蜘蛛女、お前尻から糸を出しているのか」
「し、尻ではない! 断じて尻ではないぞ! そりゃあ場所はちょっと近いかもしれないけど……。それに蜘蛛女言うな、アラク姐さんと呼べ!」
蜘蛛女、いやアラク姐さんは何か気恥ずかしそうにわめいている。
「だったら降りてきたらどうだ。逆さまでは話もしにくい」
「別に気遣いは無用だよ! アラク姐さんは宙吊りの方が便利でいいのさ!」
「そうか、別段そう言うのであれば構わんがね」
俺とアラク姐さんがしゃべっているところで女王虫が手から白い液体を空中にばらまく。
俺は警戒していたから余裕で躱すが、アラク姐さんを吊っている糸に液体がかかる。
「溶解液か!」
地面でジワジワと煙を上げる様子を見て、この白い液体が女王虫の体液と同様、物を溶かす効果がある事が判った。
「おっと危ないね!」
アラク姐さんは別の糸をお尻とは別の場所にあると言い張るところから噴き出して、壁や天井に糸を張る。
降りてくる前にも何本も張り巡らせていたのだろう。空中で巧みにその位置を変えていた。
「わらわを差し置いて談笑とは、虚仮にされたものよのう!」
「なんだ女王虫よ、放っておかれて寂しくなったか?」
「ほざけ人間……」
青白い身体をなまめかしく動かして、女王虫が身体のあちこちから体液をほとばしらせる。
「SSSランクスキル発動! 円の聖櫃、俺たちを包み込め!」
俺を中心に円形の障壁が生み出されるが、白い液体はその壁を通過してきた。
「きゃあっ!」
「危ない!」
後ろに避けていたルシルたちにも体液が飛んだために衣服が溶かされて焼け焦げのような穴を作った。
「大丈夫かルシル!」
「身体にはかかっていないけど……」
ルシルは服に穴が空いているもののそれ以上にダメージはなさそうだ。
「トリンプは!?」
「服の結び目とか留め金が溶かされて……」
トリンプはまだ溶かされていない服の欠片を胸にかき寄せてどうにか肌の見える部分を少なくしようと頑張っている。
「トリンプ、これを使え」
俺は外套をトリンプに投げて渡す。これも汚れてぼろぼろだが、ないよりはマシだろう。
「ありがとうゼロしゃん……」
「ああ。だが円の聖櫃を通過するという事は、あの液体物理攻撃だけではないな」
「魔力を帯びている、という事ねゼロ」
「そうだ、ルシルの言う通りただの溶解液じゃあない」
円の聖櫃で守りながらと考えもしたが、それを通過してくるという事はこの溶解液自体をどうにかしなければ近寄る事もできないか。
「Rランクスキル雷光の槍!」
俺は液体を避けながら指先から電撃を女王虫に向かって放つ。
「効かぬわ!」
女王虫の身体にまとわりついている粘液が電撃を弾いて地面に流してしまう。
「多少の遠距離攻撃ではあの液体に守られた身体を攻撃できないか……」
そんな時、耳元で囁き声が聞こえた。
「ゼロさん、ここはあたしに任せて下さい」
「アガテーか」
「はい」
高度な隠密入影術を発動させているため俺でもアガテーの姿を認識する事が難しい。
「あの女の形をした女王虫に尻尾のようなものが生えています。それが管となって女王虫本体へつながっている様子」
「その管があの溶解液の通り道、か」
「恐らく。あたしが管を……」
俺は剣を構え直して周りの皆に話しかける。
「俺が正面から突撃をかける! ルシル、あの液体が俺の方へ飛ばないように魔法障壁で命中率を下げてくれ」
「いいわ、Rランクスキル魔法障壁! ゼロを敵の攻撃から守って!」
俺の身体に魔力の壁がうっすらとかかる。魔力を帯びた液体であれば魔法障壁で多少は防げるはず。
「トリンプ、命中させなくてもいいから火で攻撃をかけてくれ!」
「判った! 炎鞭!」
トリンプの指先から炎が生み出され、それが鞭のようにしなって女王虫に巻き付こうとする。
「しゃらくさい!」
女王虫はその炎の鞭を軽く手で払ってしまう。
「でもっ!」
トリンプが指で操作すると炎鞭は女王虫の腕にぐるぐると巻き付いた。
「よくやったトリンプ!」
「うん!」
「それとアラク姐さん! まだ空中にいるか!?」
「アラク姐さんは直接攻撃は無理だよ! まだ脱皮したてで身体がぶよぶよなんだ」
「その糸を上手く使えないか!?」
アラク姐さんは無数に張った糸で空中を縦横無尽に渡り歩いている。
この立体的な移動手段は活用できるはず。
「そうだねえ、拡散撚糸網! これでも食らいなっ!」
アラク姐さんがお尻に近いところから投網のように八角形の網を広げて放つ。
「ぬうっ」
トリンプの炎鞭で片腕を封じられている状態で頭上から網を投げられた。
蜘蛛の糸でできた網は女王虫に身体にまとわりつく。
「ようし、これで俺が突撃を……」
「させはせぬぞ!」
女王虫がそれでも俺に向かって溶解液を吹き付けようとした。
目の前にあの白い液体がばらまかれたら、流石に魔法障壁だけでは全てを跳ね返す事はできない。
「ゼロ!」
ルシルの叫び声が地下の広場に響いた。
【後書きコーナー】
誤字脱字報告、ありがとうございます。
この400話超えた辺りから誤字脱字が多く出るようになりました。生活環境の変化、なのでしょうか。
最新話の下に評価が入れられます。
作者のモチベーションと精度に直結しますので、面白い、続きが読みたいと思われましたら、是非評価をお願いします。
評価ポイントが増えてランキングに乗っていくと、書籍化も可能性が高まると思います!
よろしくお願いします!