荒くれ者の終焉
壁に穴を開けた俺の拳圧で戦意消失したかと思ったが、ドルフィンだけはまだまだ意気軒昂で俺に拳を向けてくる。
「今まで張り合いのない奴らばかりだったからな、ちったあ戦える奴と出会えて嬉しいぜ」
「悪いな、俺はお前の趣味に付き合ってる暇はない。俺の拳圧を見ても恐れない所は賞賛に値するが、結局それも蛮勇に過ぎない」
「ふっ、言うだけなら簡単だ。確かに強さでは敵わないかもしれないがな……。弩弓隊っ!」
ドルフィンの合図でチンピラどもが弩弓を構えて立ち上がる。戦う気持ちが戻ってきたというのか。
「流石に十人の弩弓から逃れられはしないだろう、命乞いをするなら今だぞう!」
「最後に一つ聴くが、改心して真っ当な生活を……いやないな。今まで暴力で搾取してきた報いを受けろ、豪炎の爆撃!」
吹き荒れる激しい炎が俺の腕から発射される。炎はドルフィンの身体に当たり瞬時に炎の塊となった。そのまま炎の勢いは弱まるどころか激しさを増して部屋の中を荒れ狂う。
「うわぁ、助けてく……」
「熱い、あつ……」
チンピラどもは弩弓を放つ間も無く次々と炎に巻かれて息絶えていく。
俺は炎の塊を次々と放ちつつ玄関から外に出た。まだ中にいた奴が逃げようとするが、外へ出す前に黒焦げにさせる。俺が穴を開けた大きさでは人は通れない。
最後に大きな爆発が起きて、建物自体が炎で包まれた。
「害虫駆除は完全にやらないと。それにしても隣の建物との距離があって助かった。密集していたら無関係な家にも飛び火していただろうからな。まあその時は水系の魔法を浴びせるか氷結系で炎ごと凍らせてしまえばいいけど」
そうこうしているうちにラングレンの拠点であった建物が燃え落ちる。脱出できた奴はいないと思いたいが。
「流石に人だかりができたか」
俺は野次馬たちをかき分けて人混みの中へ潜り込んだ。それこそ役人や警備隊に見つかったら面倒だし。
俺が野次馬の集団から抜け出し後ろを見ると、もう魔法の炎は消え、焼けたにおいと煙が立っているくらいだった。
「ゼロ!」
ルシルの声がした。路地を進んでいたら俺たちの荷馬車の場所まで戻ってきたようだった。
荷馬車の周りには何人かの人だかりができている。
「どこ行っていたのよ今まで! 大変だったんだから!」
「どうした、そんな怒って」
「どうしたも何も、さっきみたいなチンピラが来て……」
確かに屋台の辺りが少し荒らされている。樽が割られていたり毛皮が散乱していたりしていた。
「なんだと、で、そいつらはどうした」
「それが……」
「それは私がな」
そう言って会話に割り込んでくるのは、ヒラヒラの付いたデザインはともかく、質の高い服に身を包んだいかにも金と権力を持っていそうな格好をした奴。
「えっと、確か……モンデナイ!」
「モンデールだっ! 失敬だな君は!」
「そのモンデナイがなんだ、お前か店をこんなにしたのは」
「だから言っただろう、チンピラどもに気をつけろと」
モンデールの瞳が一瞬、暗い光を宿したかに見えた。