女王虫
俺が放った炎は巣穴のそこかしこに浸透していく。炎を操りながら焼かれる虫や卵の反応を炎から感じた。
「ここから下の階層……二十五階……二十七……三十……三十五層まで炎で充満した。まだ奥がある……四十五層……」
俺は炎の指先が触れた物に特別な何かを感じた。
「そこかっ!」
感じた点を直線で結んだ所へ俺は剣を突き立てる。
「SSSランクスキル、発動しろっ! 重爆斬! 突き抜けろ猛る刃よっ!」
覚醒剣グラディエイトに俺の魔力を込めて床へと伝えた。
剣撃だけではない、俺の持ちうるあらゆる力が床を突き抜け下層へと向かう。
「ピギャァ!」
奥底で何かが激しく泣き叫ぶ声。
「ウム、手ごたえあり」
俺の感じた何かが発した音だ。恐らくこれが……。
「ゼロ出てきた!」
「退避しろっ!」
俺の掛け声で皆が俺から距離を空ける。
大きく割けた穴は深く暗い。
その奥底から何かが這い出てきた。
「ビギャァァ!」
白くなまめかしい、ぬらぬらとした物体が大きく空いた穴から出てくる。
「ゼ、ゼロしゃん……でっかいの……」
トリンプが唖然として立ちすくむ。
見れば他の連中も同様にあっけにとられている。
それも仕方がないところだろう。一つの階層が巨大な空間と地底湖もある程の大きさだ。それを数階層にもわたって占拠する程の大きさが、一個体として存在しているのだ。
「山が……動いているかのようです……」
隠密入影術をかけていたアガテーすらも隠密行動を取る事すらせずに立ち尽くす。
「呆けている場合かっ!」
俺はこの場にいる全員の意識を揺さぶり起こす。
「ルシル、トリンプ、俺の背後に! アガテーは奴の攻撃範囲に入らない距離を保て!」
俺の指示に従ってルシルたちは行動を開始するが、その直後に巨大な虫の脚が俺の目の前をかすめていった。
「おっと!」
俺はぎりぎりのところで鎌のような脚を剣でさばく。
「ぶぎゃっ!」
俺が弾いた先にはラスブータンがいた。奴は悲鳴を上げながら身体が真っ二つに切り裂かれてしまう。
どうせ首一つでもどうにかなる奴だ。それ自体は気にしないが。
「切れ味はかなりのものだな……」
脚を弾いた時の衝撃がまだ手に残っていた。
「なんにせよこの巨体だ」
「ゼロ、どうしたらいいの!?」
「慌てるなよルシル。昔から言うだろう、図体だけでかくてもそれは的がでかいだけのでくの坊だ、となっ!」
俺は目の前を通り過ぎようとする虫の脚に向かって剣を振るう。
脚は剣の一撃を受けて宙に舞った。
「たとえどれだけ敵が強大でも、俺にかかれば物の数ではないさ!」
目の前にはぶよぶよとした壁。女王虫の腹部の一つだろうか。
「まずはここからっ!」
俺は手短なところから切り裂いていく。
俺が斬った所からは半透明な白い液体が噴き出す。
「虫の体液かそれとも何かの器官か」
「ぶにゃぁ!」
白い液体を浴びた上半身だけのラスブータンが悲鳴を上げる。
見ればラスブータンの身体から煙のような物が立ち上がっていた。
「ゼロ、あいつの身体の中は強力な酸だよ!」
ルシルの言う通り、白い液体を浴びた草や虫の死骸はブスブスと煙を上げて溶け崩れていく。
「厄介な奴だな……」
俺は剣に魔力を帯びさせる。こうする事で外部の要因から剣を守れるし刃を強化してより相手を斬り割きやすくなるのだ。
「すごい……ゼロしゃんの剣が魔力で青白く光っている……」
俺の背後からトリンプの驚いた声が聞こえた。
「お前たちは俺の後ろで構えていろ。何かあったら対処を頼むぞ」
「うん」
「あい!」
俺は襲い来る巨大な虫の脚を斬り払いながらじわじわと前へ進んでいく。