地底湖の浮き島
氷の船が草地に乗り上げる。勢い余って俺たちは船から振り飛ばされてしまう。
「いったたた……」
「でもこの草があってよかったね」
「丁度いいクッションになってくれた」
ひとまず俺たちは互いの無事を確認する。
「装備は結構落ちてしまったが、身に着けていた武器は何とかなくさずに済んだみたいだな」
「そうね。ま、私は元々物理的な武器は持っていないけど」
スキル主体のルシルやトリンプは剣などは持たないだけにあまり気にならないが、アガテーは暗殺者の技を駆使するのに隠し武器をたくさん持っているはずだ。
地底湖に落ちた時にかなりの装備を失ってしまっていると思うが。
「アガテー、大丈夫か」
「え、ええ。熊は一人で戦えるので問題ありません。ここの草を使って敵の首を絞める事くらいはできますよ」
「軽く物騒な事をいうな」
「熊ですから」
アガテーは戦局を一人で変えてしまう程の力があると言われた、熊と呼ばれる傭兵たちの生き残り。戦場で生きながらえる術はいくらでも持っているという事だ。
「覚醒剣グラディエイトは無事だったし、これなら戦闘になっても大丈夫そうだな」
「いつもの事よね」
「ああ。だがみんな済まないが少し休ませてくれ。魔力を回復させたい」
「ゼロしゃん、無理しないで」
トリンプが俺のそばに寄って、小さい身体で俺を支えようとしてくれる。
「そこまで弱っていないから平気だが、でもありがとうなトリンプ」
トリンプは嬉しそうに笑みを返す。
「草がふかふかで気持ちいい……」
「でもさゼロ」
ルシルは警戒を解かない。
「ヒカリキノコの明かりがあると言ってもここは地底だよ。そこに草なんてどうして生えているんだろう」
ルシルの言う通りだ。確かに草が生えているのはおかしい。まったく日光が入らないのに。
「ゼロさん、いいですか?」
「どうしたアガテー」
「少しこの周りを見てきたんですが、ここ……島みたいです」
「島?」
「はい。ぐるっと一周してみたんですけど、戻ってきてしまいました」
「アガテーが偵察に行ってからそれ程時間も経っていないよな」
「そうなんです。それ程広いとも思えなくて」
「それくらいの島、そして草……おわっ!」
地面が揺れる。
「地震か!?」
「違うわゼロ、この島……動いてる!」
「島が動くだと!? いや、ここは島じゃないんだ!」
俺は生えている草をかき分けて地面を探った。
「土……ではない。固い物の隙間から草が生えている。この固い物は……甲羅? いや……」
俺はいくつか思い当たる物を考えてみる。
それに一番近い形をイメージした。
「俺の知っている物とは大きさが全然違うし水の上にいるというのもおかしいが、こいつは」
「なに?」
「ダンゴムシ、だ」
水に浮くダンゴムシ。その殻の隙間から草が生えている。
アガテーが言うように島としては小さいが、虫としたら巨大すぎる大きさだ。
「ど、どうしようゼロしゃん……」
「敵意を向けてこなければこのまま乗っているしかないだろうな。また水の中に入るよりはいいだろう」
モゾモゾと動くダンゴムシの島に乗った俺たちは、ダンゴムシの泳ぐがままに任せていた。