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水の中の救出劇

 地底湖の中に俺たちは落ちてしまった。

 思ったより水深がある。幸か不幸か俺の装備はさっきルシルに身体を燃やされてからほとんど焼け落ちていたから水の中でもそれ程苦労はしないが、運動の得意そうでもないトリンプと水を吸うと重たくなる革鎧を着ているアガテーが泳ぐのに苦労をしそうだ。

 閃光の浮遊球(フローティングライト)は水の中でも光を放ってくれていた。そのお陰で水の中でも少しは人影が確認できる。


「大丈夫、ゼロ!」


 ルシルの念話か。思念伝達テレパスで話しかけてくれるその方向を見る。

 ルシルは水面に顔を出していて立ち泳ぎをしていた。


「大丈夫だ」


 俺は判るかどうか半信半疑だったが、水の中で返事をする。


「ルシルは無事でよかった。他の二人は見えるか?」

「ううん、落ちた大体の位置はつかめているけど、沈んじゃっていたら水面からじゃ判らないよ……」

「よし、俺が潜ってみる。ナビゲートを頼む。まだ残っている閃光の浮遊球(フローティングライト)の一つをルシルの側に浮かせておく」

「判った。私とゼロを直線で結んで、ゼロが私を見ている確度から右手手前にアガテー、右手奥にトリンプの意識を感じるよ」

「助かる!」


 俺はルシルの指示通りに右手側へと潜っていく。


「トリンプ!」


 俺の口からは声にならない泡が出るだけだったが、俺の閃光の浮遊球(フローティングライト)にトリンプが反応する。


「!!」


 トリンプも何か言おうとするが、水の中なのでもちろん言葉にならない。

 俺はトリンプを左脇に抱えるとトリンプは俺にしがみついてくる。


「ルシル、トリンプを確保した! 今から浮上する、水面で受け止めてくれ!」

「いいよ! 勢いよくね!」

「判った! Rランクスキル発動、氷塊の槍(アイススピア)! この発射の勢いでトリンプを水面まで連れて行ってくれ!」


 俺はトリンプに氷の槍をつかませると、力一杯射出した。

 氷の槍はものすごい速度で水面へと向かっていく。


 氷の槍に付けた突起がうまいこと足がかりと直進性を持たせられたみたいだな。


 俺は独り言を頭の中でつぶやく。きっとルシルは思念伝達テレパスで聞こえているだろうが。


「次はアガテーだが……。閃光の浮遊球(フローティングライト)よ、もっと深く潜れ。水の暗さをその明かりで照らせ!」


 俺の放った光の球が水中を明るくする。


「どこだ……どこにいる!」


 隠密行動が取れるようにアガテーは金属鎧は身に着けない。だが革鎧といっても何重にもなめした硬度のある鎧だ。


「革鎧の中には水に浮く物もあると聴いたが、アガテーにもあつらえてやるべきだったか」


 俺の脳内にルシルの声が聞こえる。

 どうやらトリンプは無事にルシルが拾い上げたようだ。


 残るはアガテーか……。どこだ、どこにいる……。


 暗い水の中、白く明るい物が見える。


 あれは……。


 俺は勘を頼りにその白い物めがけて潜っていく。


「アガテー!」


 水中で意識を失っている女の子の姿。重たい鎧を脱ごうとして途中までほどいたのだろう、肩当てや胸当てが外れて服の下から白い肌が見えていた。


 まずい、気を失っている!


 俺はうなだれて動きのないアガテーの腰に腕を回し浮上しようとする。


 このままだと危ないか……。


 俺はアガテーの唇に手を当てる。

 こういう場面では口移しででも空気を入れたりするのだろうが、俺の肺にももう絞り出す空気はなかった。


「SSSランクスキル発動、円の聖櫃(サークルコフィン)。俺たちの全身を覆え。そして……」


 円の聖櫃(サークルコフィン)の中には封じ込めた水とアガテー、そして俺。

 そこでもう一つスキルを発動させる。


「Nランクスキル……火の矢(ファイアアロー)……」


 円の聖櫃(サークルコフィン)の膜は物質を完全に通さない。

 俺の放った火の矢(ファイアアロー)はほんの少しだけ円の聖櫃(サークルコフィン)の中の水を温める。沸騰する程の温度にはしない。

 少しだけ温めると水の中に溶け込んでいた空気が少しだけ現れた。その空気が円の聖櫃(サークルコフィン)の天井部分に溜まっていく。

 これ以上温めると、泡は出てくるがそれは沸騰した水蒸気で空気ではないからな、慎重さが必要だ。


 俺はアガテーの口をその溜まった空気の中に入れ、正面から強く抱きしめる。

 少しでも上に持ち上げようとしてたから、俺の顔の所にアガテーの胸が当たった。


 いいぞ、鼓動がしっかりと聞こえる。


 そうだ、俺はアガテーの肺にある水を出そうという事と、心臓の脈動を確認するために、あえて胸元に顔を当ててだな。


「ゴホッ、カハッ!」


 アガテーが溜まった空気の中で水を吐き出し、ほんの少しの空気を胸に取り込む。


「ゼロ……さん……」


 アガテーが抱きついた状態の俺を見る。

 意識が戻った事を確認した俺は、アガテーだけを円の聖櫃(サークルコフィン)の中に残し浮上させる。


「ゼロ!」


 ルシルの念話が俺の頭に伝わってきた。


「済まんルシル……」


 俺の足に巨大な虫の顎が突き刺さっていたのだ。

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