親玉の拳と勇者の拳
相手が何人であろうとも武器を持っていようとも俺には関係ない。というのも、この程度の連中では俺に傷を付けることすらできないからだ。
やたらと剣を振り回しても、柱に斬りつけたり天井に当たったりと戦いに慣れていない奴ばかりではな。
「脅しているばかりで実戦経験が乏しいからこうなる」
足払いを掛けて倒れた奴の頭を蹴飛ばすとそれだけで意識が無くなる。
次の奴は手刀で手首を叩けば簡単に剣を落とす。
別の奴には俺が椅子の脚をつかんで振り回して顔面に直撃させればそれでおとなしくなった。
奥の扉が開いて男が四人出てくる。
「ほほう、なかなか若いのにやるじゃねえか」
そりゃそうだ。魔王を倒した勇者の実力は伊達じゃない。
「ドルの頭、こいつです、こいつが今話した奴です!」
奥から出てきたのは筋骨隆々の大男。身長は二メートルくらいだろうか。人間としては大きいが俺はドッシュたちヒルジャイアントを見てきているからな。そこから比べれば子供みたいな大きさだ。
それと俺が追っていた三人もいた。
「俺はドルフィン。チームラングレンを取りまとめる頭だ。よくもここまでチームの連中を痛めつけてくれたもんだな。その礼をしなくちゃならねえ」
ドルフィンは両手にナックルダスターを装着してる。握った状態の見た目は指輪にも見えるが、指にはめ込んで拳の攻撃力を高める金属製の武器だ。
「拳での戦いに自信があるようだな」
「若いの、そういうあんたも素手で戦っているじゃねえか。おんなじようなもんだろう」
「そう言うな、俺の専門は剣だからな」
「それなのにこの戦果って訳だ。やるねぇあんた」
「そう思うのならうちの商売に手を出さないで欲しいね」
「へへっ、それはどうかな」
ドルフィンが軽いステップを踏みながらパンチを繰り出してくる。
鋭く、速い。
俺は動きを見て躱していくが、ドルフィンの拳がどんどん速くなる。
ドルフィンのパンチがテーブルにかするだけで、木片となって砕け散った。
「少し当たっただけですごい威力だな」
「だからさ、当たった奴は生きていねぇ」
ドルフィンの拳が空を切る。その勢いで壁に掛かっていたランプがはじけ飛ぶ。
「真空波まで出せるのか、なるほど町の警備隊ですら相手にならないというのもうなずける」
「そこまで知っていてそれでも刃向かうとか、正気の沙汰とは思えねえがな。まさかごめんなさいしに来たって事じゃあねえよな!」
ドルフィンのパンチから繰り出される真空波が俺のエプロンにかする。肩紐が切れてエプロンが落ちた。
「ああそうだ。勇者っていうのは世界を平和にするのが仕事だからな。お前らみたいな人をいじめて楽しんでいるような悪党は潰さなきゃ気が済まないんだよ」
俺は思いっきり拳を突き出す。風圧で部屋の壁に大きな穴が空く。
「人を脅して奪って押さえ込むような奴らは俺が駆除してやる」
俺は握った拳をドルフィンたちに見せつけてやった。