地下巨大池
砂漠の地下、何もない空間に俺たちのいる石の通路が存在していた。
「ヒカリキノコで通路自体はなんとか輪郭が把握できるものの……」
俺は試しに閃光の浮遊球を暗闇に投下してみるが、暗闇の中で浮いているだけで周りには何もこの光を反射する物がなかった。
「閃光の浮遊球の光が届かないという事はかなりの距離があるとみていいな。地下だというのに、この巨大な空間はいったい何なんだ……」
「でもさっき水の音が聞こえたよね」
「下もかなりの距離がありそうだがな。どうするか、降りてみるべきか。このまま引き返すという手もあるが」
「でもここで引き返しても虫が発生する場所の特定にはならないんでしょ?」
「そうだな、ちょっと気が遠くなりそうだけど……Rランクスキル発動、凍結の氷壁」
俺は凍結の氷壁をかけて足下に氷の板を作る。
「もう一つ、凍結の氷壁!」
「氷の板で階段を作るって事ね?」
ルシルの言葉に俺はうなずいて応えた。
「確かに気が遠くなりそうね。それに滑ったら危ないし」
「だがこれなら行き帰りもできるからな、魔力の持つ限りは」
「その時は私が分けてあげるから安心して」
俺は氷の階段を作りながら軽く笑う。
「そうしたら頼むよ」
俺たちは氷の階段をゆっくりと下りていく。俺がスキルを使いながらの移動になるのでどうしても遅くなるが、周囲の暗闇を警戒しつつ進むため更に速度が落ちる。
「定期的に石を投げてみてるみたいだが、どうだ?」
「もうすぐ下に着きそうだよ。投げた石が着水するまでの時間がどんどん短くなっているから」
「よし、閃光の浮遊球の数を増やそう。上下左右前後にそれぞれ配置する」
「氷の階段を作りながらなんて器用ね」
ルシルの冷やかしは放っておいて、俺は次々と光球を作って空間に浮かせた。
「ゼロさん、聞こえますか?」
「聞こえてきたぞアガテー。水の……流れる音だな」
「はい、水の音までそう高さはなさそうです」
「だが深さがどれくらいか判らん。すぐ飛び込む訳にも……」
「ゼロしゃん! 後ろも、音!」
「どうしたトリンプ……え? 後ろ……まずい!」
俺は急いで氷の階段を作って進む。
「魔力の消費を抑えようとして凍結の氷壁のスキルで作ってから、氷の維持に魔力を使っていなかったんだが……」
「ゼロ、それって……」
「地下とはいえ砂漠って事かな。ひんやりしているようでもそれなりに気温はあったみたいでさ……」
ピキピキと背後から音がする。
「溶けてヒビが入る音……?」
「せ、正解……」
俺が答えたその時、突然襲う浮遊感。
「割れたぁ!」
「いやぁ!」
かなり上の方、通路近くの氷の板が熱と重さに耐えられなくなったのだろう。氷の割れる音と共に俺たちの乗っていた氷が落下した。
「ぴやぁ~!」
「きゃー!」
俺たちは悲鳴を上げながら、落下していく。
「水が!」
落下先に見える水面が閃光の浮遊球の光を反射している。
そう気が付いた次の瞬間には、俺たちは四つの大きな水柱を作っていた。