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ヒカリキノコ

 石でできた建物は内部がかなり傷んでいる。砂漠の中に建っていただけあって、外見もかなり砂に削られていたようだが、中は棲み着いた虫によって荒らされていた。


「だいぶ地下に潜ってきたが、まだ虫を湧き出させていた場所に着かないな」

「ゼロしゃん、虫を出してたのさっきの蜘蛛女じゃないの?」

「いいかトリンプ」


 俺は歩きながらトリンプの頭をなでる。


「あの蜘蛛女が産んでいたのは蜘蛛ばかりだった。蜘蛛の巣に捕らえられていた者も蜘蛛の子の餌になっていた。だがコームの町へ押し寄せてきた奴らには甲虫もいたし羽虫もいた」

「うん。蜘蛛だけじゃなかった」

「そうなんだ。この砂漠の神殿が怪しいとにらんだのは、コームとクシィを襲った虫の大群の出発地点なんじゃないかと考えたからというのは前にも話したよな」

「うん、町に押し寄せてきた虫のその逆の方角へ、ずーっと線を引っ張ったら」

「コームとクシィ、虫が移動していた向きを逆にしたらこの砂漠のど真ん中にたどり着いたって訳だ。あくまで虫が直進しかしていない、という推察ではあったがな」


 俺たちは通路のようになっている石畳を歩いて行く。少し下り坂になっている道だ。

 アガテーが先頭に立ち状況を伺いながら進む。その後ろに俺とトリンプが横並びでついていく。最後にルシルが背後も警戒しながらしんがりを務めている。

 そのルシルが話に加わった。


「その目安となる場所に行ったらこの石の建造物があったのは偶然じゃないよ。これだけの建造物っていうのも凄いけど、中にはそれなりの数の虫がいたしね。ゼロの見立ては間違っていないと思うよ」

「それに……」

「そうだね」


 先を行くアガテーが俺たちに手振りで停止するよう合図する。

 見ると、通路が瓦礫で塞がれていた。


「ゼロさん、この通路は行き止まりになっています。でも……」

「風、か」

「はい、瓦礫で道が塞がれていますが、その向こうから空気の流れを感じます」

「目をこらすと……よし、明かりを消してみるぞ」


 俺は閃光の浮遊球(フローティングライト)を消す。光は徐々に弱まり、辺りは暗闇に包まれるはずだった。


「ゼロ、かすかにだけど瓦礫の隙間から光が」

「やはりな。光が見えるという事はこの瓦礫の向こうに光源があるという事と、この瓦礫がそれ程厚くないという事だ」


 俺は瓦礫を軽く蹴る。


「この先に何があるか判らん。慎重に……」


 二度三度、蹴る力を強めながら瓦礫をつついていく。


「あれだけの虫がいるんだ。餌になるものと……水があるって事だ。この砂漠の中にあるこの建物には、な」


 俺がもう一発蹴りを入れようとした時、瓦礫の崩れる音が通路に響いた。

 崩れた瓦礫が落ちていく。塞いでいた通路に青白い光が入ってきて俺たちを照らす。


「通路が、途切れている……」

「ゼロ、こんなにも大きな空間が地下にあったなんて」


 俺たちのいる通路自体はこの先で崩れていたが、その向こうに広がる空間は石畳でできた人工建造物ではなく、闇だけだった。


「下もどれくらいの高さか判らないよ……」

「何もない空間に俺たちのいる通路がトンネルのように存在していたという事か。いや、この通路自体は柱で支えられているようだぞ」

「ゼロ、気をつけてね」


 俺は通路の端に行って辺りを見回す。

 通路は四角い筒状になっていて周囲が見えない状態では宙に浮いているようにも思える。

 夜の空のように周りには何もない。通路は太い柱が何本も支えていて、通路の外壁がうすぼんやりと光を放っていた。その柱も下の方はどこまで続いているのかが判らない。


「これは……」


 俺は慎重に外壁へ手を伸ばして光る物をつまんだ。


「キノコ? ヒカリキノコか」

「暗闇の中で自然発光するっていう?」

「そのようだな、ほら」


 俺は後ろにいたルシルに光るキノコを渡す。


「この明かり、キノコの光だったのね」

「だから日の光が入ってこない地下でも、薄明かりがあったんだな」

「でもさゼロ」


 ルシルが俺と暗闇を見比べる。


「この先どうしようか?」


 確かに通路となっているこのトンネル自体はヒカリキノコのお陰でどうにか形が見えるものの、少し離れると真っ暗闇だ。


「さっき瓦礫が落ちていく音を聴いていたが、この様子だと下までかなりの高さがありそうだな」


 俺は試しに近くに転がっていた瓦礫を暗闇に投げてみる。

 瓦礫は落ちていき、少ししてから俺たちの耳に届いたのは水に落ちる音だった。

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