表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

406/1000

身動きが取れない

 蜘蛛女の上半身は人間の姿をしていて両手は人間のものになっているが、腰から下は蜘蛛になっていて蜘蛛の脚は六本生えている。

 その蜘蛛の脚は先端が鋭い針状になっていて、歩くたびに鋭い金属音のような固い物のぶつかる音がした。


「あ~あ、なんだよなんだよ、勝手に入ってきてさ! 気にくわないんだよな、あぁ!?」


 蜘蛛女は脚を踏み鳴らす。カチャカチャと地面を叩く音が耳障りだ。


「大量の虫を送り込んできたのはお前か、蜘蛛女」


 俺は努めて冷静に質問を投げかける。

 他の虫とは違って言葉が通じるのであれば対話はできるはず。

 話しかけながら左腕にまとわりついた蜘蛛の糸を引き剥がそうとするが、粘着質の糸が絡まって簡単に引き剥がせない。


「ふっざけんな! ふっざけんなよおい! お前らがどうなったかなんてこちとらカンケーねえんだよ! それよかよくもこんなに、こんなに子供たちを、ぶちの殺しをやってくれたなぁ! こんなに焼けちゃってさぁ、こんなに凍っちゃってさぁ!」

「わめくなよ、キシキシ言う声が頭に響く」


 蜘蛛女は顎を上げて俺を見下ろす格好になる。


「……おい人間、お前にも同じ痛みを与えてやるよ」


 突如として蜘蛛女が静かな口調になった。


「なん、これは! 俺の左腕が凍っている、だとっ!」

「火は流石に苦手だけどね、冷気で凍らせるのなら、このアラクネ様にはお手のものなんだよ」


 アラクネと名乗った蜘蛛女が口をすぼめて蜘蛛の糸に息を吹きかける。それが冷気となって俺の左腕にも伝わってきて俺の左腕を凍らせていく。


「俺は常時発動しているSSSランクスキル温度変化無効があるというのに、腕が凍り付くなんて……」

「それは珍しい能力をお持ちだねぇ? だけどそれがどうした。お前が冷たさを感じずともその腕を氷で覆ってしまえば凍らせる事はできるんだよ。それに冷たさを感じないと言っても血の巡りは悪くなって行くんじゃあないのかね、え? どうなんだい!?」


 アラクネの言葉がまた荒くなる。


「さあさ、凍っちまえばもしかしたら……その腕だって割れたりしちゃうかもしれないよねぇ! ねぇ! どうだろうねぇ! はーっはははは!」


 アラクネが高笑いをして甲高い声が響き渡った。

 俺はまだ自由の利く右手からスキルを発動させようとする。


「駄目だね、この糸は魔力を吸収して子供たちの栄養になるんだよ。そんな状態で能力なんて使える訳がないっていうの」


 得意げに話をしていたアラクネだったが、急に言葉を切って後ろを振り向く。


「無駄だよ」


 アラクネがどこか別の方向へ糸を吐き出す。


「きゃっ!」

「アガテー!」


 隠密入影術(ハイドインシャドウ)で潜んでいたはずのアガテーが糸に捕らえられる。


「それで隠れたつもりとは、とことん人間という奴は愚かだねえ、くっくっく……」


 今度は口から大きな塊を吐き出す。


「いやぁ!」


 アラクネから吐き出された粘着物の塊がトリンプを天井近くの壁に貼り付けた。


「三匹目……」


 アラクネは静かに、それでいて地の底から絞り出すかのような声でささやく。

 アガテーががんじがらめに捕らえられ、トリンプも身動きが取れない状態だ。


「ルシルは……」


 そう俺がつぶやいた時、ルシルの思念が俺の中に入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ