苦手なワキャワキャ
それ程狭くは無い石でできた通路。明かりはないから俺が閃光の浮遊球のスキルを発動させて視界を確保する。
そこに飛び出してきた虫の姿。
「ぴぎゃぁ!」
警戒しろと叫んだ俺の後に続いたアガテーの悲鳴。
「いやいやいやだめだめだめ! いやぁ~!」
必死に俺の背中にしがみつくアガテー。
「どうしたんだアガテー!」
「アガテーしゃん、それじゃあゼロしゃんが動けないよう!」
「ぴやぁ!」
目の前には巨大なムカデが三匹迫ってくる。
「あ、あたし……脚がいっぱいなの、苦手なんですぅ!」
「ムカデだからか……。ルシル、トリンプ、行けるか!?」
俺が頼むよりも早くルシルがムカデたちに向かって手をかざす。
「Nランクスキル、貫け雷の矢!」
ルシルのてから電撃が矢のようになってムカデに襲いかかる。
それへ続くようにトリンプもスキルを発動させた。
「Nランクスキル、行って! 火の矢!」
トリンプの指先からも火が噴き出して矢のように飛び出す。
電撃に焼かれ火に飲まれたムカデたちは俺の足下へ来るまでに黒焦げになって転がっていた。
「ひっ……もう、大丈夫……?」
アガテーは俺の背中をつかんで震えている。
「大丈夫だ、二人が片付けてくれたよ」
辺りは焦げ臭い煙が漂っていた。
「ほ、ほんと?」
「ああ本当だ」
恐る恐るアガテーは手を放して大きく息を吐き出す。
「ごめんなさい、あたしああいうワキャワキャしたのが苦手で……」
「甲虫とかは大丈夫なのか?」
「え、ええ。まだあそこまで脚がいっぱいないから……」
「蜘蛛は?」
「それくらいなら、なんとか……」
「そうか。ああいうワキャワキャした奴が出たら俺たちで何とかしよう。隠密入影術もしていられないだろう?」
「う……ごめんなさい」
俺はうなだれるアガテーの肩に手を置く。
「ありがとうゼロさん!」
アガテーは俺に抱きついて潤んだ目で俺を見上げる。
大きな胸が俺に押しつけられ、甘い香りが俺の鼻をくすぐった。
「まあゼロも幽霊とかが怖いもんね」
「よ、余計な事を言うなよ!」
「はいはい」
ルシルは冷たい視線を投げかける。
「ほら、そうお喋りをしていられないぞ」
通路の先から地を這う虫どもがカサカサ音を立てながら近付いてきた。
黒光りして脂ぎった羽で高速移動してくるが、これならどうにかできそうだ。
「ムカデは……いないみた……」
「ひにゃぁ!」
いきなりトリンプが悲鳴を上げる。
「黒くてテカテカしたの……いやぁ~!」
「今度はトリンプか……」
トリンプが俺に抱きついて身動きが取れない。俺が出せるのはため息だけだ。
アガテーは既に隠密入影術で物陰に潜んでいたから、そのまま任せるとして、後は頼めるとすれば。
「ルシル……」
「仕方がないわね」
ルシルが呆れながらも黒光りした虫を次々と電撃で仕留めていく。
ルシルの討ち漏らした虫はアガテーが後背からの影撃で潰していった。
「もう、前衛のゼロが戦わなくてどうすんのよ」
「済まん……」
ルシルの不満げな顔に、俺はただただ謝るしかなかった。