勇者パーティー
炎天下。
「暑い……だろうな」
俺の側で大汗をかきながら歩いているルシルに声をかける。
ここはトライアンフ大陸の砂漠。ワイバーンの背に乗ってコームの町から平原を抜けて三日程西に行った所だ。
「ゼロはいいよね、温度変化無効のスキルがあるから」
「まあな、俺はちっとも暑くないが、ウィブに乗っている時から日差しが厳しかったからな、そう思っただけだ」
ルシルは水を飲んで隣にいるアガテーに渡す。
アガテーは隠密入影術を使うでもなく、普通に俺たちと共に行動している。
ウィブで移動するのに一人隠れながらという訳にもいかないからな。
アガテーは水筒をトリンプに渡した。
「ゼロしゃん、トリンプが全部飲んじゃっていい?」
「ああ構わんぞ。まだ水筒はいくつかあるからな」
今回の旅、ルシルは常に一緒だ。
その上で俺は旅の仲間としてアガテーとトリンプに来てもらった。
アガテーの隠密技はこういった探索の旅にはうってつけだ。
まあ、トリンプはどちらかというと勝手についてきたというか強引に同行したのだったが、魔族でもかなりの高位な者らしく魔術系スキルの補佐には期待できると判断した。
今いる仲間たちから旅に耐えられる者となると限られてくる。自由民の兵士や沿海州の男たちからも選ぼうとしたが、彼らには町の防衛や整備を行ってもらう必要があった。
「今回は危険な旅になるからね、水だって大切にしないと」
「まあそれは確かにな。俺もまさか砂漠になるとは思っていなかったからな、装備で足りない物が出てきたら教えてくれ。だがそれよりも……」
「あれね」
俺たちが目指す物、それが目の前にそびえ立っていた。
「こんな砂漠の真ん中なのに、ところどころで虫の死骸が見つかる。それをたどっていった結果がこれだ」
「石の神殿……」
「恐らく地下に何かがあるのだろう。そこから虫が湧き出てきているように思える」
俺たちが休憩している地面の砂が盛り上がる。
「ほらな!」
俺は砂漠の砂から飛び出してきた巨大な蜘蛛を一刀両断にした。
体液をほとばしらせて蜘蛛は力尽きる。
「ゼロしゃん、これ毒蜘蛛だよ。トリンプ見た事ある、ちっちゃいのだけど」
トリンプが分断された蜘蛛と紫色の体液を見て、これがデザートバイトという毒蜘蛛だと断言した。
「この体液を使えば毒が作れるんだよ。トリンプ作ってみていい?」
「逆に自分が毒にかからなければ作ってもいいが、ひとまずあの神殿まで行こう。炎天下の砂漠でやる事でもないだろう」
「うん!」
トリンプは毒蜘蛛の身体から何かを取り出して腰の小袋へ入れる。
「ゼロいいの?」
「素材として持ってる分には大丈夫だろう」
「そうじゃなくってさ……。あの子連れてきちゃって」
「ちょっと強引についてきちゃった感じはあるけどさ、何かあったら俺が守ってやるし、トリンプも炎のスキルはかなりのものを持っているからな、戦力としては期待できるだろう」
「うーん……私の言いたかった事とはちょっと違うんだけど、ゼロが面倒見てくれるって言うなら気にしないようにするよ」
「お、おお……」
俺は剣をしまうと中天に昇った太陽を見上げた。
「ウィブ、この辺りは休めるところがあるか? オアシスでもあればいいんだが」
「探そうかのう、勇者よ」
「いや、俺たちが使うんじゃなくてさ、ウィブ、お前に待っていてもらう場所だよ」
「おう、儂かのう。ふむ……儂は別段この砂漠でも気にしないが、確かにあの神殿には入れんからのう。神殿の屋根にでも登って休んでいるとするかのう」
「それでいいのであれば……まあ任せるさ。ルシルからの思念伝達が使えるようにしてくれれば構わんぞ」
ワイバーンのウィブは大きくうなずいて神殿の方へと羽ばたいていく。
「あ、どうせなら神殿まで俺たちも乗せていってくれればよかったのに」
俺の言葉はウィブの羽ばたきで舞い上がった砂に埋もれて、誰の耳にも届かなかった。